大学院のこと(9) (進学・留学体験談)
香港大学で大学院生として過ごした日々を振り返るシリーズ『大学院のこと』第9話。今回は大学院生の幼稚化という現象について書いてみたい。
香港大学では大学院生という立場で「一部のクラスメイトの幼稚化」に違和感を覚えたわけだが、加えて、教える側の立場から見た時にも「学生・生徒」の幼稚化という現象が近年では目立ち始めているようである。というのも、仕事(講演など)で学校に行くと、先生たちは次のように口を揃えるからだ。
「今の子は昔に比べると、だいぶ幼い」と。
昔の子に比べると、従順でおとなしく扱いやすい子が多いそうだが、話をする時には「マイナス5歳ぐらいを相手にしている感覚でお願いします」と予め言われることが増えた。大学に行けば、「中学2年生くらいに話しかける気持ちで」と言われるし、高校に行けば、「とてもいい子たちなのだけど、小学校高学年の子に説明するような感じで、やさしく噛み砕いて・・」などと言われたりする。
香港だけではない。どうやら日本も同じようだ。それに卒業後15年くらいして訪れたアメリカの短大でも、かつて世話になったスチューデントアドバイザー(英語の先生)は学生の質の低下を嘆いていた。
「学生がどんどんバカになって、最近では授業をすることさえ難しくなってしまった。ついていけない学生たちに補講をして、それでもダメだから補講のための補講をして、補講の補講の補講をするようになった。短く初歩的な文章を読むところから教え、椅子に座って話に集中するよう訓練しようとしたけれど、もう無理ね。ここは大学よ。小学校じゃないんだから」
そういうわけで先生は短大を辞めたそうである。バカバカしくてやってられない、と。
ただし私が展開したいのは、いわゆる「最近の若者論」ではない。最近の若者が幼稚化しているだとか、若い学生がバカになっているだとか、そういう話になってしまうと、では私が学生(学部生)だった頃はどうだったのかと胸に手を当ててみなければいけなくなる。そして自分たちも同じことを言われていたなと思い出すばかりで、ついに「最近の若者は・・」などと言い出した自分自身の中年化を苦笑するしかなくなってしまうのだ。
したがって、最近の若者がどうこうという話ではなく、たとえば教育機関の構造的な問題や、高等教育を取り巻く社会的背景など、私が大学院で「幼さ」を感じてしまった理由を「最近の若者論」の外側から考えてみることにした。
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