田舎の土地の「儲け話」をめぐって(雑談)
週末の朝、友人から突然連絡があって、1年ぶりに会うことになった。数年前に茶畑の仕事で知り合った彼女は、今年も春から畑作業に来ていて、もうすぐ3ヶ月の収穫作業を終えて都会にある自宅へと帰っていくところだった。私はいろいろあって今シーズンは畑には一度も出ていなかったし、もう今年は会えないかと思っていたタイミングでの、とても嬉しい再会だった。
彼女からは「今年の畑がどんなだったか」を教えてもらい、私は2月にやっと手に入れた「森の家」について話した。話の途中で、茶畑に近年増えている観光客が話題にのぼり、新たに観光プロジェクトが立ち上がり拡大しつつあることを知った。茶畑歴15年以上の彼女は、昔はこんなことなかったのに、と言った。
「私が最初に来た頃なんて、茶畑以外な〜んにもない、のどかな田舎だったのになぁ。あの頃の雰囲気が気に入ってたんだけど、最近はもう全然変わってきちゃってるよね。正直、ちょっと冷めた感じで見てるんだけど。お茶の仕事は変わらず好きだけどさぁ、何だかなぁ〜って」
農道にまで溢れるようになった観光客のことや、小さな茶の町に乗り入れてくる観光バスのこと。店内では外国語しか聞かれなくなったオシャレカフェや観光スポットなど、農村から観光地へと変貌しつつある町の様子を話していると、話題は数年前に注目を集めた某有名リゾートによる大規模開発の話になった。ああ、あれね、と彼女は続けた。
「さすがに農家さんたちの反対にあったみたい。あれってさ、そもそも、どういう話だったか知ってる?」
「いや、詳しくは知らないけど、5年前は〇〇リゾート来るらしい!ってすごく盛り上がってたのに、あのあと聞かなくなったなと思って」
土地売買の話題で当時一番ホットだったのは携帯電話の電波塔で、次がメガソーラーパネルで、お茶よりずっと金になるなどと言われていた。そうした流れの中で〇〇リゾートの土地買収の話が持ち上がり、農家さんたちの注目を集めていた。誰が、どこの土地を、一体いくらで売るのか、と。
「あれはリゾートホテルを〇〇(美しい茶畑が広がる町随一と言われるエリア)のど真ん中に建てるって話だったらしい。今ある畑を潰して茶畑の真ん中にどーんと建てて、ホテルから360度茶園が見渡せるって言うのを売りにする話だったみたいだけど、さすがに農家さんから反対されたみたいよ」
「そりゃそうでしょ。そんなの最悪じゃん」
町の景観が悪化するのは間違いないが、巨大ホテルが建設されれば、周りの農地への日当たりや農道へのアクセスなど、農業への支障も出ただろう。
もちろん見方を一つ変えれば、リゾートホテルの建設は「過疎がすすむ田舎」に素晴らしい恩恵をもたらす。ホテルに農地を売った地主(農地を必要としない人)に大きなお金が入り、田舎に雇用が生まれ、税収が上がり、観光地として活気付く。眠っていた地方の資源(観光資源)を掘り起こすことで、雇用と富を生み出せるというわけだ。これこそが地方の生きる道であり、地域活性化の事例として、地方創生に関わる人たちは両手をあげて肯定することになるのだろう。
でも、私はそうは思わない。儲かると思うし、活性化するとも思うけど、それでも肯定する気になれない。結局のところ、これは善悪の問題ではなく、何が好きで、何が嫌いかという個人の好みの問題なのだ。
ここから先は
らくがき(定期購読マガジン)
身の回りの出来事や思いついたこと、読み終えた本の感想などを書いていきます。毎月最低1回、できれば数回更新します。購読期間中はマガジン内のす…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?