『青春18×2』を観た
『青春18×2 君へと続く道』を観ました。
題名はそのまま「せいしゅん じゅうはちかけるに」と読みます。
物語は、台湾人の男性・ジミーが、自分が作って大きくしたゲーム会社の社長を解任されるところから始まります。いきなり食い詰めるという感じではなさそうで、仕事の引き継ぎのために日本に出張したジミーは、そのままひとり旅に出ます。『SLAM DUNK』が好きなので“聖地巡礼”で湘南へ、そして長野の松本へ……
それは18年前、ジミーが18歳のときに忘れがたい出会いをした日本人女性・アミを想い出す旅でした。
……という感じの内容で、宣伝で観ると、もうぶっちぎりのキラッキラの青春ラブストーリーなんですけど、それと同じくらい、青春を追憶して卒業する大人のほろ苦い物語でもあります。なので意外と10代向けってこともない。案外、大人のほうが感動するかもしれない。
この映画の特徴的なところは、悪人がひとりも出てこない。
単純に善悪で割り切れない……というのでもなく、本当に善人しか出てきません。ジミーとアミに対して、敵意を向けたり、複雑な愛憎を抱えて接してくる人が皆無。ジミーとアミが働くカラオケボックスの人々も、大人のジミーが旅先で出会う人々(なにわ男子の道枝くん、黒木華、松重豊、黒木瞳など豪華です)も、みんな素でいい人。
カラオケボックスの女子とか、もっとアミに突っかかったりしそうなものだけど、そういう展開はこの美しく切ない映画にはノイズでしかないと言わんばかりに採り入れません。
ここでいきなり文句を言いますが、かなり大事な登場人物であるジミーの家族とカラオケボックスの人々を演じた(たぶん)台湾の俳優たちの紹介がパンフレットにも公式サイトにもないのはどうなっているのか。なんか契約とか権利とかの問題があるのか? たんに日本ではバリューがないからという判断でしかないと察しますが、観た人は知りたくなると思うよ……。
話を戻します。
善人しか出てこない映画ですけど、じゃあペラいとか退屈ということはぜんぜんないんです。そこがすごい。
台湾や日本の美しい風景のなかで、ときに悩んだり苦しんだりもするけど、明るく優しく生きていく人々の健やかな生命力がスクリーンの中に静かに満ちている。
善も確かに人間の性だと思い出させてくれる。
そしてアミのファムファタールとしての恐ろしい説得力。
あらすじには「大好きな絵を描くことにひたむきなアミと過ごすうち、恋心を抱いていくジミー」と書いてあるけどどう見ても初対面のときにすでに完全にやられている。だってしょうがないよ。女子が好きな男子でアミに心を奪われない同年代の若者は存在しないと思う。美しく朗らかでコミュ力が強く老若男女に愛され、そのくせどこか謎めいていて、ジミーとの距離感が近すぎると思ったらスッと離れていき、でもまたソッと近づいてくる、コケットだけど清らかな真っ白い悪魔!!! そのくらい、清原果耶が演じるアミというヒロインの魅力が炸裂しています。
ジミーを演じるシュー・グァンハンも、高杉真宙とか高橋一生みたいな感じの美しくて素晴らしい俳優でした。実年齢は30代前半で大人ジミーに近いんだけど、18歳の平凡な少年の「あの感じ」も完璧に出しているのはどういうマジックだ。映画を観ている時点では年齢はわからなかった。
主題歌はMr.Childrenです。ジミーとアミはミスチルが好きという設定なので、日本オリジナルということではなく公式な主題歌なのかな。
映画のために書き下ろした新曲『記憶の旅人』がエンドロールで流れてきて、あまりにも物語の内容に即した歌詞でびっくりしました。YOASOBIの歌詞くらいストーリーを忠実になぞっている……。前述の通りド直球の物語であり、ミスチルの世界と親和性もあるムードの映画なので、これは捻らずそのまんま書いて作品に寄り添ったほうがいいという桜井和寿の判断なのだろう。個人的にはもう少し飛躍してもよかったんじゃないかと思っている。
シンプルだけど丁寧に作られた、素直にとてもいい映画でした。
このnoteを読んでくれている皆さまは人間や社会がすっかり無理になっている人ばかりだと思いますが(決めつけるなよ)ぜひこの映画をご覧になって、心を洗ってほしい。強力な水圧でみるみる汚れが落ちます。
あと、こういうストレートな物語も、きちんと取り組んでいい作品にすれば現代でも支持を得られるということにも、作家のはしくれとして勇気づけられました。