語学レッスンと語学学習の秘訣――私の教え子に思いを馳せる


はじめに


 2022年より、個人の仕事として語学レッスン(とりわけスペイン語の語学レッスン)をしている。この仕事と私の経歴(学歴)に関する詳しい自己紹介は次より参照できる。この投稿を簡潔に述べると次の通りである。

外語専門学校にてスペイン語を専攻する。実践的なスペイン語力を身につける。その後、大学に(2年次)でスペイン語学科に編入し、スペイン語学を理論的に専攻する。スペイン語学ゼミナールゼミ長。大学院博士前期課程科目履修生終了(大学院博士前期課程合格)。

2021年4月に大手語学学校のスペイン語講師の講師登録。2022年に某オンライン語学学校にてスペイン語の講師登録。レッスンを担当。

2022年より、個人でスペイン語や語学レッスンを始める。
・大学非常勤講師にスペイン語レッスン担当(初級)
・慶應義塾大学生に語学相談(語学コンサルタント)を担当
・社会人のスペイン留学に向けたスペイン語レッスン担当(初級)
・元スペイン語学科学生のスペインワーキングホリデーに向けたスペイン語レッスン担当(上級)

経歴と指導歴

語学レッスンの内容と教え子に思いを馳せる

 現在、語学学習と語学レッスンはありふれている。これほど語学学習がSNSを通じて誰にでも開かれている時代は、きっと、今が最先端である。SNSを通じて、「ネイティブが言う文」を知ることができるし「話せるようになる」語学学習が繰り広げられている。また、「AI chat GPTを活用した語学学習術」も私達に開かれた。これまで、限られていた語学学校という大きな単位が消滅し、SNSを通じた小さな共同体で、語学講師も語学学習者も「革新的な」語学学習を求めるようになった。 
 これまで語学講師としての筆者が意識してきたいくつかのことを目録的に挙げる。これは語学学習者でもあった私自身の意識でもあった。

・革新的な説明(言語学的説明)で良い授業をする
・モチベーション(意欲)を高める授業をする
・ノートを書いて文法を分析すれば語学力が身につく
・たくさん話せば語学力が身につく、つまり話せるようになる

語学講師/語学学習者としての意識

上記の意識はこれまでの語学レッスンに反映されていたと思う。次から、私の下でスペイン語レッスンに取り組んだ教え子のを書き留める。

2022年12月:社会人にスペイン語レッスンを担当。その際、スペイン語の文法の一つ、再帰動詞に関する文法の解説授業であった。私は、スペイン語レッスンにおいて言語学的な知見を踏まえて文法を分かりやすく「画期的に」教えるように心がけた。

「Arashi先生は言語を多面的な視野から見ていることが理由と思いますが、こちらの求めている答えをすぐに自分の引き出しから出してくれるという感じがします。教科書に載っていない、感覚的な説明等を聞くと、長い時間理解に苦しんでいたことがしっくりくる喜びを感じることができました。体系的な勉強をされたい人はもちろん、言語上達に悩んでいる方には一度先生にすがってみるのもいかがでしょうか?」(原文ママ)

社会人にスペイン語レッスン(中・上級)

2022年9月から2023年3月に担当した大学非常勤講師へのスペイン語レッスンでは、一つひとつ「画期的で」「分かりやすい」文法の説明を心がけた。もちろん、スペイン語の会話の時間を「フリートーク」として設けた。とりわけこの時期の筆者は、「モチベーション」に強いこだわりを持っていた。この点は次の受講生の声から垣間見れる。

「総合的にめちゃくちゃ良かった。めちゃくちゃおおげさに言うと、豊かになりました。話せることが増えてゆく。加点主義。プレッシャーゼロの中で[注:加点が]増えていったのは良かった。必要に迫られない学習はこんなにも豊かになるのか。英語以外で外国語に触れたのは初めてだった。」(原文ママ)

大学非常勤講師にスペイン語レッスン(初級)

 さて、この当時の語学講師の筆者の課題とは何だっただろうか。係る問いは、今だったらどのような指導をするだろうかということ。このことは、語学指導に携わる者として、また語学学習に励む者として理想の語学学習法を顧(かえり)みることとなる。

課題1
優良な単語帳を用いて単語学習をさせる。具体的には、日本語とスペイン語を交互に音読させるということ。また、単語の確認テストもすること。

単語学習の重要性

「ひたすら会話をしよう」と謳う語学講師は多い。しかし、アウトプットはインプットをし続けた先の漏れであって、豊富なインプットのないところにアウトプット、つまりインプットの漏れはない。この際、インプットというのはやはり単語力のことである。結局、語彙力である。

課題2
優良な語学書あるいは文法書を音読させ暗唱させる。

音読と暗唱の重要性

 これも先述の「ひたすら会話をしよう」ということへの疑問を投げかける。インプットのないところにアウトプットはない。優良な語学書あるいは文法書を音読させ、さらには暗唱をさせる授業をすること。個人的に、私はイタリア語の文法学習でイタリア語の「遠過去」が苦手である。これを克服するために、私は遠過去の文法の音読、さらには暗唱をした。この暗唱を、実際の会話で単語を入れ替えて話せばいい。暗唱指導と暗唱学習の重要性については、黒田龍之助の言葉を参照。

「教育は流行り廃りの激しい世界だが、日本ではすでに何十年も「暗記教育」が敵視されている。意味も分からず、ただただ丸暗記するのは無駄であるばかりか、学習者の創造性まで奪うというように嫌われる。その代わり、なにやら与えられたテーマを闇雲に調べたり、未熟なプレゼンテーションをさせたりすることが、推奨されるようになった。だが外国語教育についていえば、暗唱は欠かせない。というか、暗唱してこなかった学習者の外国語は、底が浅いのだ。」

黒田龍之助(2023), pp. 65-66, 『ロシア語だけの青春』, 東京:筑摩書房. 

課題3
学習計画を立て、それに合わせて確認テストをすること。様々な学習法を試すことでアイディアの洪水を起こすのではなく、音読と暗唱学習による確認テストで学習者が着実に話せたり身につけることができたか、責任を持つこと。

確認テストの重要性

 一般的に、多くの語学講師が確認テストをしていない。解説して、「なにか質問はありますか」という問いかけで終わらせてしまう。

 一つ、筆者の試論として、語学学習者は自分の学習についてよく知らないということを述べたい。これを仮に語学学習者の非当事者性と呼んでみよう。そして語学講師の専門性に言及したい。したがって、語学学習の定着に際して、当事者に質問するのではなく、語学教育の専門家である講師が確認テストをすること、そこに責任を持つことresponsibilityは、一方的に責任を押し付けるということではなく、respondという応答することの応答可能性を意味する。これは國分功一郎の議論を念頭に置いている)。

語学学習者=当事者は自分の学習についてよく知らない。
これを語学学習者の非当事者性と呼ぼう。
そして語学学習の専門家としての語学講師が
学習者の語学学習に責任を持つ(応答する)こと。

語学学習者の非当事者性

 実際の語学指導は難しい。2024年9月に元スペイン語学科の学生にワーキングホリデーに向けたスペイン語指導をした。その時の振り返りシートには、音読と暗唱を多くこなすことの重要性を認識しつつも、会話をすることの難しさに直面していた。(しかし、4日間という少ない期間でのスペイン語レッスンだったので、より良く授業をすることができた。

音読、暗唱を多くこなすことがスペイン語を上手く話すことに通じる。
リズム良く、イントネーションをはっきりと話すこと。
難しかったこと、会話とイントネーション。

2024年9月5日、受講生のコメントより

モチベーションを保たせてくれるのが良い。
4日間の短時間で習得できたのは、スペイン語をスペイン語らしく話すこと。
現地の会話で必要なのは伝わる言葉を話す。
ワーホリ前にレッスンをしてもらえてよかった。

2024年9月5日、受講生のコメントより

結論

 ひとは常に変わる。というか、変わってしまう。語学学習で話せなかったスペイン語が話せるようになることも、私は変わってしまうことの一つの例である。一方で、そんな簡単に一つの言語を話せるようにはならない。だから変わるためには、ある一定の時間とともに身につける学びに身を捧げることが大切である。
 ここでは語学講師の筆者の立場から、これまでの教え子に思いを馳せながら、より良い語学指導について考えた。このことは同時に、学習者にとってより良い学習とは何かという問いと実践にも繋がる。

専門的な文法用語で教えても、その言葉は忘れられてしまう。
ノートを書いて文法を分析しても、それは未だ身につけたことではない。

身につける語学学習とは、単語帳で語彙力を鍛え、
文法を理解した先の音読と暗唱指導・学習である。

実際の会話では、暗唱した文を異なる単語に置き換えればいい。

より良い教え=学びとは

これまでの投稿については、次を参照。


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