児童書ミステリーは難しい
こんにちは。
主に児童書などで小説を書いています。秋木真と申します。
今回は、児童書で書くミステリーについて、ちょっと考えてみたくなったので、お付き合いいただけるとうれしいです。
僕の著作を見ると、ミステリーが著書のそれなりの割合を占めています。
10冊以上は書いています。
書くわけですから、もともとミステリーは好きでした。最近だと米澤穂信さんや相沢沙呼さんを読んだりしてますね。学生の頃はアガサ・クリスティーを始め古典ミステリーもよく読みました。でも、書くとなると違うのが小説の世界なのです。
初めて児童書でミステリーを書いたのは「少年探偵 響」シリーズ(角川つばさ文庫)。
「怪盗レッド」シリーズ(角川つばさ文庫)のスピンオフとして、探偵響の小学生時代の活躍を描く物語です。
ただ、当時の僕はミステリーは一度も書いたことがありませんでした。アマチュア時代も書いた記憶がありません。
それでなんで企画書を書いてるんだ、という話であるんですが、ちょうどやってみたかった頃だったんです。
それでもミステリーはそれなりに読んでいましたし、小説を仕事とするようになって10年。まあ、書けないことはないだろうと思ったのですが、壁にぶち当たりました。
━━「ミステリーと児童書ミステリーは違う」。
当たり前ではあるんですが、児童書でミステリーを書こうとした時に想像以上に制約が厳しかったんです。
そもそも、児童書でミステリーを書こうとすると殺人事件は編集部NG。
小学3年生から読めるターゲットの児童書で、どろどろとした動機みたいな話もNG。
日常の謎における細かい機微に面白さを見出すには、ちょっとまだ早い。
なにを書けばいいんだ? と真面目に悩みました。
児童書ミステリーには、燦然と輝くはやみねかおるさんの「夢水清志郎シリーズ」があります。
児童書におけるミステリーとして、いまだにあのシリーズを越えるものはないと思いますし、今後現れるかと言われると難しいと思います。
当然、参考にしたいと手に取るわけです。
参考にならないんですよ。すごすぎて。
キャラ造形や文章や構成の組み立てまでは、まだなんとかなります。でも、児童書という制約の中であのトリックを作り上げる発想力というのは、生粋のミステリー作家じゃないと無理だと思いました。
児童書の長編ミステリーで、子どもがそこまでトリックを重要視しているかというのは、確かにあるとは思います。
主にトリックのすばらしさを語るのは大人です。
ただトリック以上に、場のセッティングがうまいんです。ミステリーというのは事件が起こるので、非日常の空間です。
子どもたちは、その空間にワクワクします。
そこで魅力的なキャラクターが謎に挑み解決する。一種のヒーロー的な活躍が子どもたちの心を掴むと考えました。
生粋のミステリーファンからしたら、怒られるような話ではありますが、探偵役の魅力はミステリーにおいて重要というのは同意いただけるのではないかと思います。
そんなわけで、児童書ミステリーでトリックで勝負するのは厳しいと思いました。その代わり、魅力的な探偵役と舞台設定を用意しよう。
思いっきりワクワクドキドキさせよう。その狙いに絞れたのは、「夢水清志郎シリーズ」のおかげです。
狙いはある程度は成功して、「少年探偵 響」シリーズは8巻刊行されて累計15万部以上は出ています。(正確な数字は公式で出していないので、ぼやかしますが)
続刊が諸事情で数年出せていないにもかかわらず、重版がいまだにかかるくらいです。
児童文庫としては成功の類いですが、1作書くのにカロリーが高すぎるのが玉に瑕です。アニメとか漫画の作画カロリーが高いと同じで、小説にも書くのにカロリーが高いものがあります。
自分にとってはそれは児童書ミステリーです。
でも、やっぱりミステリーは好きなんです。
他にあまり出しているところがなくても、児童書ミステリーを書きたい。そんなわけで、また「探偵七音」シリーズという「少年探偵 響」と同じ時間軸の別の少女探偵を主役にしたミステリーを書いています。
結局は宣伝かい、と思ったあなた。その通りです!
本って知られないのが一番悲しいですからね。
現在は2巻目の「探偵七音はためらわない」が刊行されたばかりです。
3巻目が出せるかはわかりませんが、やっぱり児童書ミステリーは楽しいです。
児童書ミステリーは正直なところ、児童書の中ではそんなに強いジャンルではありません。一般文芸の流行りぐらいに比べたら、過疎っているというレベルで刊行数は多くありません。(どこまでジャンルの幅を広く見積もるかにもよりますが)
でも、カロリーが高くても書くのが難しくても、企画書が通りにくくても、また書く機会があったら、書きたいですね。
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