音楽と建築
今は建築設計を仕事にしていますが20代はレコード屋の店員でした。
音楽好きが高じて大学卒業後は就職活動もろくにせず、選んだ仕事は大好きな音楽を聴いていられるレコード屋さんの店員でした。なので私にとって音楽と建築は好きが高じて選んだ2つの職業のようなところがあります。どちらもアプローチみたいなものは一緒です。結局、感覚的に好きとか心地いいとか思っているんです。もちろん掘り下げることはしますし、できるだけ言葉にして伝えるようにもしますが、あんまり説明しすぎても理屈っぽくて薄れるんです。だから音楽は向き合って聴くこと、建築はその場に行くこと、そしてどちらも感じることを大切にしています。
昔から音楽は好きでしたが最も惹かれるのは徹底して美しい旋律です。流行っていようがいまいが関係はなく、耳に残ることが何よりで歌詞は二の次のような聴き方です。なので洋楽も邦楽もジャンルも関係なく、ただ美しい旋律を求めて聴いています。
例えば私にとって年の瀬で美しい曲というと「雪の降る街を」という曲なんです。1952年の流行歌です。もちろん生まれてはいません。私は小学生の時に、おそらく「みんなのうたで」で聴いたのではないかと思います。
この曲は1985年の雪が降る東京の高層ビル群とともに思い出になっていて、それは小学5年生の社会科見学のこと。寒波で都心に雪が降る中、読売新聞の本社見学へと向かう移動のバスの中でクラスのみんなはキョンキョンの「なんてたってアイドル」で騒いでいるのに、私は結露した車窓から見える雪景色の高層ビル群を眺めながらこの曲が頭にめぐっていたという。そんな記憶が今も残っています。何かで曲を聴いてもらえるとわかりますが、なかなかに物憂げな子供だったのだなぁと思います。
北欧好き・映画好き的にはアキ・カウリスマキの作品エンディングに流れるのでマニア的には知られているのかもしれません。ただこの曲の一般的知名度というのはよくわかりません。私の周りではこの曲の話がでることはなく個人的名曲になっていたので、2010年に手嶌葵+坂本龍一さんに取り上げられた時はものすごくうれしかった。この曲が好きなのは一人ではなかったし、教授が取り上げるなんて!という静かな感動がありました。そして今でもどのカバー作品よりも好きなバージョンになりました。
この曲はたぶんもう40年近く好きなんですよね。昔から変わらずに好きな味とかもありますけど、こういう変わらず好きなものというのは奥深い。脳の中にこれだけの年月変わらずに存在していると、なんか自分そのもののような気がしてきます。こういうものは薄れないものですね。でも今も新しく仲間入りする大好きなものを求めてもいます。ブルーハーツのような存在が新しく発見できるとは思ってはいませんが、年齢には年齢の発見があるはずだと思っていて、音楽と建築に関しては食わず嫌いはありません。
宮崎駿さんの制作風景はよくドキュメンタリーで見ましたが、作業中に製作中のアニメ主題歌が繰り返しループで流れていたのを覚えています。レコード店でも販促のために一定期間特定のアルバムを店内で流しますが、これがなかなか拷問です・・・好きな楽曲でも嫌いになれます。今は懐かしいプロディジーというダンスミュージックは今も聴けません。そりの合わなかったその時の店長とともに思い出されトラウマ楽曲です。なので、ジブリのスタッフさんもいやだったろうなと思うんですが、今設計作業中は、計画案件のイメージに合う楽曲をかけながら仕事をするので、創作と音楽は切り離せません。画家奈良美智さんとかロックかけながら作業しててかっこいい。那須の奈良さんの美術館にも近々行きたいと思っています。音楽は風景を生み出すので、建築とはとっても相性がいいと思います。畑中正人さんの益子のスターネットのZONEで録音した「house of voice」は建築と音楽の雰囲気が合っているし、空間そのものの音がしてとても好きです。音楽ホールではない場所での音楽と建築の調和は私の中のひそかな名盤です。音楽と建築が好きで仕事にしたわけですが、今も音楽は仕事に不可欠なもので続いているのは幸せだと思います。