Distorted Melody, High Time High Tideプログラムノート

久しく更新しておりませんでしたが、このnoteでも時々音楽に関する文章を掲載していく予定です。不定期になりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
まずは2021年5月12日(水)アンサンブルノマドの定期演奏会にて再演される、私の二つの作品のプログラムノートを公開いたします。(*一部、加筆・修正あり)Distorted Melodyは昨年のボンクリに引き続き2回目、High Time High Tideは日本初演になります。自分にとってはかなり昔の作品で、まだ電子音楽を始める前の今とは方向性が異なる室内楽作品ですが、この時まで受容した音楽を爆発させながら作った大切な作品です。日本で演奏されることを嬉しく思います。


Distorted Melody ー歪められた旋律ー(2010)

オランダのハーグ音楽院在籍中にニューヨークを拠点とするBang on a Can アンサンブルのために作曲した作品。2010年2月に作曲。オランダに渡航し、2作品目を製作するにあたり、より個人的、且つ力強い表現をしたいと考え、自分が幼少期に触れてきたジャズや民族音楽の影響を大きく打ち出した。ハーグ音楽院の作曲科はスティーブ・ライヒと同時代に生き、互いに影響を与え合った作曲家、ルイ・アンドリーセンの影響が強く、ポスト・ミニマル以降に生きる作家として何をすべきかという自問があった。まずはこの特異な編成である6つの楽器の音色が一つに混ざりあった音響を聴きたいと考え、そこからヘテロフォニックな動き、各楽器のソロイスティックな箇所を構想していった。また、旋律は電子的に操作を施したイメージで音価を決定していったが、それは、旋律を”歪める” 、“捻る” という感覚であった。強拍を補填することなくかなりのスピードで各楽器の音型が同時に動いていく箇所などは、アンサンブルをする際に困難を極めると予想されたが演奏家を信じて書き進めていった。作品はオランダでの初演の後、ニューヨークでのBang on a Can Marathon concert を始め、アメリカ、マサチューセッツ美術館でのコンサートやベルギーでのアルスムジカ現代音楽祭などでBang on a Can アンサンブルにより演奏され、その録音は音楽家坂本龍一氏のラジオ番組で放送されたが、日本初演は2020年に東京芸術劇場で開催されたボンクリフェスティバルにてアンサンブル・ノマドによって行われた。今回このアンサンブル・ノマド定期演奏会で取り上げていただけることに深く、感謝をしております。


High Time High Tide ーハイタイム ハイタイドー(2012/2021)

この作品もハーグ音楽院在籍中、オランダを拠点として活動している Asko|Schönberg アンサンブルのために作曲した作品である。更に今回の公演のために改訂した。ハイタイム, ハイタイドという言葉は光る樹液のような生命に恵みをもたらすような液体が溢れ出て、飽和した状態、それに満たされた空間に身を置いているイメージから来ている。始まりのセクションは小節の終わりに向かってエネルギーを溜めて、放出、を繰り返すという周期でできている。このセクションの中心的な音組織は旋法的な語法で構成されており、緩やかに変化していくが、ヘテロフォニックな音の身振り、各パートがそれぞれポルタメント、またはグリッサンドで旋律の周辺で装飾的な動きをすることで音響全体に微細な変化を生じさせた。機能和声的な音響の在り方、推移、展開していくような時間ではなく、悠久の時間の中でただ存在しているものとしての音響、それを観察するような時間を作り出したかった。やがて飽和したエネルギーは同音連打のセクションへと移行していく。
今回作品改訂のために9年前の自分と交流することは難しくも面白い作業でした。この機会をくださった佐藤紀雄さんに改めて感謝いたします。

牛島安希子

以下、演奏会詳細 です ↓
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アンサンブルノマド第72回定期演奏会
場所:東京オペラシティリサイタルホール
日時:2021年5月12日(水) 19:00開演

***チケットは既に完売になっており、
ライブ配信用のオンライン視聴用のチケットが購入できます。
ライブ配信用チケット購入ページ:https://afls.zeyo2010.co.jp/performances/106
料金:2,200円
対応ブラウザ: MS Edge(Windows)/ Safari (Mac)

プログラム:
I. ストラヴィンスキー:弦楽四重奏のためのコンチェルティーノ(1920)
M. バビット:オール・セット(1957)
牛島 安希子:Distorted Melody -歪められた旋律-(2010)
牛島 安希子:High Time High Tide  -ハイタイム・ハイタイド-
(2012/2021改訂版初演)
大友 良英(作・編曲):ストレイト アップ アンド ダウン組曲~ありえたかもしれない(でもありそうもない)もう一つのジャズ史~(2021)-世界初演

出演者:
Ensemble NOMAD:
佐藤紀雄(cond/gt)
木ノ脇道元(fl)
菊地秀夫(cl)
野口千代光(vn)
甲斐史子(va) 
佐藤洋嗣(cb)
宮本典子(perc)
中川賢一(pf)

Guests:
大友良英(gt/arr)
菊地雅晃(elec.bass)
林 憲秀(ob)
鈴木広志・江川良子(sax)
塚原里江(fg)
萩原顕彰 (hr) 
佐藤秀徳(tp)
今込 治(tb)
對馬佳祐 (vn)
金子鈴太郎 (vc)
芳垣安洋(drum)




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