第一夜 Mを思い出す夜
なぜこの映画が第一夜にきたのか、自分でもわからない。
時々思いだしては、この映画の基調ともなっているstingの「Angel eyes」がたまらなく聴きたくなるのが常だ。
多分、ほとんどが夜のシーンが印象的なので、夜中のガスパールというとこの映画を思い出すのだろう。
アル中と娼婦の救いようのない話だ。
ベガスのけばけばしいネオンの街を居場所を求めるニコラス・ケイジとエリザベス・シュー演じる人生から転落したふたり。
劇場公開を観たのは、30代の後半に差しかかったころ。
私は恋人Mと銀座の映画館でこれを観た。
Mは当時勤めていた会社の違う部署の格上の上司的な立場だったが、Mは半ばアル中になりかけていた。映画が始まりかけたころに、私の隣のシートに滑り込んできて、手慣れた手つきで上等なワインのボトルをスポーンと抜いた。座席の周囲に赤ワインの匂いが立ちこめて、プラスティックだったがワイングラスをそっと渡してくれた。松屋デパートの地下食料品売り場から調達してきたカツサンドをつまみに。
そうして映画の後には近くの酒屋でジンを買って、タクシーでうちで飲み直し。
あの頃、どうしてあんなにMが好きだったのか?20年以上経っている今でも
考える時がある。
1. 優しい 2.業界で有名な人物だから 3.有名人の息子だから 4. 育ちがいい
5.仕事が出来て英語も達者
考えられる理由は以上の5つ。でも今となって納得できるのは4の育ちがいいというつまらない理由だったのかもしれないと気づいた。
それは最近、Mとよりを戻そうという提案があったのだが、
M「付き合ってもう20年になるんだよなぁ」
A「初めからだともっとだね、それにしても私はあなたが大好きだったのに、あなたは冷たくて辛い思いをずいぶんしたわ」
M「そうなの?知らなかったよ」
A「私があげたあのマフラー、今もしてる?ポール・スチュワートの」
M「お気に入りなんだ、あれ以上のものは今でもないね」
A「・・・ねぇ、あなたは私に何もプレゼントしてくれたことなかったわね」
M「ふふ、いつもご馳走してるじゃないか」
A「高価なものなんていらないの、あなたの痕跡が欲しかったのよ」
・・・というどーでもいい会話なのだが。
当時はこんなことは絶対に言えなかった。
あれから外資系へ転職し、英語でのビジネスに揉まれ英語コンプレックスも消えた。優しくてマメで、すぐに情報をくれたり人を紹介してくれたり、Mが女性たちにモテる要素を持ち合わせた男たちにもずいぶん会ってきた。
事実、Mは女性のみならず男の友人も多いらしい。
プレイボーイには2種類いる。
気を使って努力して女にモテようとしている男と、自然体のまま無意識に女に気に入られる男。
それに気づいて、Mがなぜ好きだったかの答えを納得したというのが、Mとの20年以上に渡るLoveWarの決着だった。
しかし、もうMを追いかけない私がいる。
話をリービング・ラスベガスの頃に戻すと、あのままだとベンとサラのような結末になりそうな気配だったのが、軽井沢へ不倫旅行の後、過労のMが倒れ1ヶ月入院。それをきっかけにMはなぜかアルコールを受けつけなくなった。今はグラスで1杯ほどしか飲まない。
時々、真夜中に飲んでいると自信の持てなかったころの自分を思いだすときがある。それがこの「リービング・ラスベガス」だ。