全く参考にならない、わたしたちのイタリア式夏休み(の序章)

イタリアの夏は、長い。
とにかく、長い。
サマータイムで太陽の出ている時間が長いのはともかく、夏休みが長すぎるのだ。

日本やアメリカのように「有給休暇=ないと思ったほうがいい」という環境と比べると、ものすごく贅沢な悩みだろうと思う。
だって、正社員で働いていれば、有給休暇が4週間は保証されるのだ。
わたしも遠い昔、フィレンツェで悠々自適なシングルライフを送っていた頃は「休んで好きなことして、お給料も出るなんて最高!」と思っていたことがあった。

だが、しかし。
イタリアで家族を持つと、事情は一変する。
というのも、イタリアは子どもにとっては最高、両親にとっては最悪の場合、1年の1/4は学校がないわけで、特に子どものいる共働きの家庭にとって、この「夏休み」という期間はほぼサバイバルゲームに等しいのだ。
務めている業界や職務内容、会社の規模によっても変わってくるものの、どれだけ希望している時期(=子どもが家にいる時期)に有休を取れるのか、そもそも夫婦そろって同じ時期に有休がとれるのか、場合によってはどこまでリモートワークでしのげるか、おじいちゃん&おばあちゃんはどのへんまで面倒を見てくれそうか、それがダメならどこで、どのくらい子どもを見てもらえる環境が整えられそうか…etc、旅とは全く関係のない、己のあらゆる要素をまず包括的かつ徹底的に考慮ししなければ、夏の予定を立てるスタートラインにも立てないのである。

そもそも、人口6,000万人の国の大半が民族大移動を繰り広げる季節だけに、できるだけ早くから動かなければ航空券もフェリーも電車はもちろん、ホテルもアパートもキャンプ場も徐々に値段と競争率が一気に跳ね上がる。
それは、誰だってわかっているのだ。
でも、そんな事情はひとまず置いといて、周りの出方を伺いつつ、微妙なタイミングを読んでどこかでバカンスの話を切り出してはみるものの「うーん、どうだかねー」という曖昧な返事に意気消沈し、でもその間に気だけは焦るので(仕事中に)PCで予約サイトとにらめっこしながら両親や友達、ありとあらゆる人に電話をかけまくり、学校のない2~3か月をいかにして切り抜けるかを考えなければならない…というのが、イタリアの一般的なお父さん・お母さんの春である。
ちなみに、娘の通っているasilo nidoは0~3歳児を対象とした一応「共働きファミリーのための教育機関」であるものの、8月は容赦なくフルにお休みです。
日本だったら、きっと「預けられないなんてあり得ない」って何かが炎上するだろうけれど、1か月分だけどうにか生存戦略を考えればそれで済むのだから、先生ありがとう。

そんなわけで、夫は潔く行動を起こした

…去年の11月に。

わたしは意外と「これをやっておかなきゃ」「あれも準備しないと」と事前にしっかり決めておかないと心配になるタイプなのだけれど、さすがに半年以上も前に夫が次の夏のアパートを予約したことを知ったときは、目が点になりそうだった。
夫の言い分である
・娘の学校がない
・我が家にはクーラーもない
・8月はローマの街自体が(観光名所を除いて)機能しない
→だから、是が非でも夏を乗り越える頭のよい方法を誰よりも先に考えないといけない
というのは百も承知であり、理解もしているものの、10か月前にいそいそと計画をスタートさせるイタリア人は初めて見た。

焦燥感にあふれる夫は、あるタイミングで予約の取りづらいところが空いていることを突き止め、その瞬間に間髪入れずに予約を入れ、イタリア中がクリスマスで浮かれまくっているときにプレゼントのことはすっかり忘れ、次の夏の計画をどんどん発展させていった。
その後、
・いつか車で国境越えをしてみたい(わたし)
・涼しいところに行きたい(夫)
・いっぱい遊べるところに行きたい(娘)
という各々の希望を加味した結果、いつの間にか「車でヨーロッパ部分縦断の旅」というわけのわからない壮大なプランに至り、娘の負担になりにくい移動時間でたどり着ける、宿泊費も法外に高くない場所を選びながらルートを組んだところ

ローマ → 南イタリア・プーリア州 → 中央イタリア・マルケ州 → 北イタリア・アルトアディジェ州 → オーストリア・チロル地方 → ドイツ・ミュンヘン/ハイデルベルグ/アーヘン → ベルギー・アントワープ (途中でオランダ・ユトレヒト/ゼーランド地方) → ドイツ・マールブルグ/シュヴァルツヴァルト地方(黒い森、途中でフライブルグ、フランス・コルマール)、スイスを通ってイタリア・ピエモンテ州 → リグーリア州 → ローマ

…という、聞いた人のほとんどが「それ、本気?」と心配していたルートにたどりつき、わたしたちは車に軽く5kgのパスタ、ホールトマトの缶詰8個を含めとんでもない量の荷物を載せ、それ以上にとんでもない量のものを買い込みながら、7月中旬~8月下旬までヨーロッパを移動してきたのだった。

でもね、これがまぁ、ものすごく楽しかったのよ!

というわけで、これから時間があったら、気づいたことでも書こうかな。
娘が「ローマに帰りたくない」と言ったくらい満喫した、せっかくの思い出いっぱいの旅なので。
イタリアとは全く違うヨーロッパを目の当たりにして、何もかもが新鮮で、どこか懐かしい時間を家族で過ごすことができた旅なので。

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