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翔んで姑(しゅうとめ)

ほぼ初対面なのに、段階を踏まずに「嫁姑」みたいな空気になった、という話。

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昨年、地域のお祭りに参加したときのこと。
カセットコンロを使って、熱々の肉まんを提供することになった。

チーム肉まんは、私たち「母親世代」3人と、少し年上の「祖母世代」3人。「祖母世代」3人のAさん、Bさん、Cさんのうち、Aさん&Bさんとは月に一度は顔を合わせるのでお互いに打ち解けているのだが、Cさんはほぼ初対面。協力して作業する、というのは初めてだった。

いよいよ祭りが始まった。「さあ、肉まんをどんどん売っていくよ!」という熱気の中、6人は体制を組んだ。
【肉まん蒸し蒸し隊】
・私
・同じ「母親世代」のお友達で仲良しのSさん
・「祖母世代」のCさん
【接客隊】
・「母親世代」のもう1人
・「祖母世代」のAさん、Bさん

私とSさんは、ほぼ初対面のCさんに挨拶をし、準備に取り掛かった。コンロに火をつけ、湯をぐらぐら沸かす。蒸し器に冷凍肉まんを放り込みタイマーをセットして待つこと7分。タイマーが鳴ったら、蒸し器から熱々の肉まんを取り出して、薄紙に包んだら「接客係」へ。

簡単なようだが、ペースを掴むまでにはそれなりの時間がかかった。
カセットコンロが苦手だし、蓋を開けた瞬間に蒸し器からブワッと吹き出す蒸気に「うわっ」と驚いたりする。トングを使って肉まんを挟むのに手間取り、薄紙に入れるのにも一苦労。コツを掴むのが大変だった。
 Sさんも試行錯誤しながら、自分なりの方法を見つけ出していた。もう少しで2人の波長が揃い、テンポ良く作業ができそう、というところで、Cさんが細かなことで口を出すようになってきた。

具体的に何を言われたのかは、実ははっきりと覚えていない。
「ここの蒸し器が空いている、早く次の肉まんを入れないと」とか、「次に入れる肉まんの準備は?」とか、「ここの肉まんは蒸し上がってるから、早く取り出さないと」とか、「ゴミをちゃんと捨てないと、引火するよ」とかなんとか。
こっちからしたら、黙って肉まんを蒸し器に入れてもらったらいいし、蒸し上がってるなら、取り出してもらってもいい。ただ、どういうわけか作業はしない。気づいた事実を、淡々と口にするだけ。しかも、その言葉の節々に、「今の若いお母さんは、家事ができないのねえ」的な空気が感じられたのだった。
Sさんも私も、じわじわ〜と「なんだか変だな、この空気」とは感じていたが、お店は大盛況で、とにかく「蒸して、売って」に集中するしかなかった。Cさんの言動について深く考える余裕はなく、あっという間に忙しい時間は過ぎ去った。

後日。1ヶ月に一度の会議で、Cさんのお友達であるAさんとBさんに会った。その時、「肉まんの時、石田さんとSさん、頑張ったわねえ」とAさんとBさんが笑いながら話しかけてきた。
「え? あ、あの時? なんでしたっけ」
「ほらあ、Cさんが、なんか、姑みたいだったでしょう。私たち、接客しながら、様子を見ていたのよ」

Sさんも私も、苦笑いするしかなかった。
そうそう、あの時、肉まんを蒸していた現場はまさに、「嫁と姑」のキッチン裏だった。Cさんは決して悪い人ではないのだろうけど、日頃「キッチン」を居城にしているだけあって、キッチンでの不始末は特に目につくのだと想像した。つい、小言が出てしまうのだろう。

初対面だろうが関係ない。一足飛びで「嫁と姑」の関係になってしまうのが、キッチンでの共同作業なのかもしれないと感じたのだった。

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