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#3 フライドポテト計画
その時だった。
風が吹いた。いや、正確には、風が吹いたような気がした。
窓は閉まっているし、カーテンも揺れていない。それでも、その風は確かに自分の身体に触れた。
そして次の瞬間、身体がふわりと浮き上がる感覚に襲われた。
「え、ちょ、何これ!」
思わず声を上げたが、誰もいない部屋にその声は虚しく響くだけだ。
理解できないまま、目の前で双眼鏡が輝きを放った。光が渦を巻き、自分の身体がその中に引き込まれる。
「うわあっ!」
叫ぶ間もなく、気がつけばそこは暗闇だった。漆黒の世界の中、唯一の光源が目の前に立つ人影だった。
その人影はぼんやりとした金色の光に包まれている。まるで神話の絵画から抜け出したかのようだ。
「ここは……どこだ?」
恐る恐る声を出すと、人影が静かに口を開いた。
「話を聞いてほしい」
その声は穏やかだったが、どこか威厳があった。
「な、何? 話って……」
困惑する自分をよそに、人影は淡々と続けた。
「私は三郷神社に祀られている大国主だ」
「は?」
自分が漏らした声は素っ頓狂だったが、仕方がない。突然こんな場所に連れて来られた上に、いきなり神様を名乗られても、どう反応すればいいのかわからない。
「戸惑うのも無理はない」
大国主と名乗った光の人影は、優しげに頷いた。
「お前は夏休みに三郷神社でこの双眼鏡を拾ったな」
「ああ……確かに拾ったけど、それがどうしたの?」
「その双眼鏡は私からお前に渡したものだ」
「え?」
「この双眼鏡には特別な力がある。助けを求めている人間の姿を映し出す力だ」
(助けを求めている……?)
「浮かび上がる顔の人間は、お前が助けられる相手だ。助けるのが、お前の役目だ」
「ちょっと待ってよ! 役目って、そんなの急に言われても……」
言い返そうとするが、大国主は一切動じなかった。
「お前を選んだのは私だ。お前ならできるからだ」
(勝手に決めるなよ……)
そう思いつつも、何か言い返せずにいると、大国主はさらに語り始めた。