イジワルメガネ
私は世の中がイジワルに見えてしまう、イジワルに解釈してしまうメガネをかけている。
だいぶレンズのイジワル色は薄くなったが、まだまだメガネ自体は健在だ。
しかし日ごろはそのメガネの存在を忘れてしまっている。
いかにその色で世界を、人を見ているのかを忘れてしまっている。
数年前、姑と同居していた頃のことだ。
夫の兄が、家族と共に連休の度に泊まりにきていた。
年末年始、GW、お盆、秋の連休と年に4回。
しかも2泊以上していくのだ。
それについてしょっちゅう夫と喧嘩になっていた。
その度に、彼の中にある『両親が揃っている自分と、自分の家族はまともで正しい』という価値観が透けて見えて、それがものすごく腹立たしかった。
正しいことなのだから、それに従わない私の方こそが間違っている、と暗に思っていることもよく伝わってきた。
それを彼がはっきりと口にしたことはない。
私の両親が不仲で別居していることは知っている。
なので、『マトモな自分と家族が正しい』と公言することはよくない事、と思って控えているんだろう。
しかし毎年数回にわたって喧嘩を繰り広げるたび、その『マトモな自分と家族が正しい』という価値観を持っていることを明らかに認めさせないと、話が進まない、と私は感じるようになってきた。
また言い合いになった時、ヒートアップした頃合いを見計らって作戦決行に打って出た。
「あんたはどうせ、仲が悪くて別居している私の両親らと違って、自分ちは両親揃ってるし色々まともで正しいと思ってるんだろ!!」と言ったら
「ああそうだよ!!」と夫がまんまと乗せられたのだ。
この一連の流れが私の意図のもとに行われたことだとバレないよう、私が実は内心「よっしゃ!言質とったぁぁぁ!」とガッツポーズをしているのがバレないよう、私はさらに芝居を重ねた。
「言ったなこのヤロウ!それがどういう差別発言か分かってるのか!」
なかなかに面倒臭い返しだ。
「ああそうだよ!」と言った直後、彼はハッとして、『マズい!』という顔をしたし、すぐに「今のは確かによくなかった。そういうことは言ってはいけないことだった」とも言った。
そこからは、義兄家族が来ることに私が不満を見せることについて、だいぶ夫の態度が軟化した。
この一連のやり取りや変化について、『社会的に言ってはいけないことを言った』ことが、彼の態度の変化の原因になった、と私はずっと思っていた。
しかしつい最近友達に
「いやいやいや。そうじゃないよ。彼はあなたを傷つけてしまった、と思ったからだよ。あなたの傷を分かっているからだよ」
「そう見えないのは、あなたのかけてるメガネが、だいぶイジワルなフィルターかけてるんじゃないの」と言われたのだ。
そうなのかもなー。と案外素直にその言葉を受け取れた。
イジワルメガネの存在に気づいて、少しずつレンズの色が薄くなってきたんだと思う。
まぁ、まだメガネを外せてはいないのだけど。
少しずつね。