コロナ、不時着
正月に両親、兄夫婦、私と家族全員が揃い「今年も全員健康に過ごそうね」と話した。6日後、両親はともにコロナ陽性になり、高熱で意識が朦朧としていた父は入院になった。仕事中にその一報を母から聞き、頭が真っ白になりながら状況を整理してふと思った。両親が症状が出始めた日から逆算すると私もコロナの可能性があるのではないか、と。何なら両親にうつしたのは私なのではないか。年明けからなんとなくだるいし、喉も痛いような気がする。
頭が混乱しつつも、急いで両親の対応をしてくれた兄に連絡をいれた。世話をかけたことを詫びると、兄は長男風を吹かせて「別に大丈夫。俺が後のことはしておくからお前はなんもせんでいい」と言った。
その声はしっかり鼻声だった。
お前もコロナやないか!!
兄は否定していたが、私も陽性だと確信した。正月の決意はキレイな前フリとなった。
翌日が休みだったことに加え、自宅待機になることを想定し、定時までに仕事を片付けた。退勤後は食材を買い込むため職場近くのファミマへ。スーパー大好きな私はコンビニにはあまり行かないのだが、すでにどこのスーパーも空いていない時間。やむなしで入ったものの、限定商品が目に入り、しっかりテンションが上がってしまった。
気がついたらポカリスウェットと欲望のままに八天堂のクリームパン2個を買っていた。帰りの電車内でようやく「これで過ごせるか」と冷静になり、自宅近くのセブンイレブンに寄って体調不良の時でも食べられる食材を買い込んだ。
帰宅後、早速クリームパンをひとつ食べて以前購入していたやっすい検査キットを試したが、使用方法をしっかり間違えて結果が出なかった。「やっぱり陽性だから頭が働かないのね」と自分のバカさを全部体調のせいにし、翌日、朝一番に近所の薬局に駆け込んで検査をさせてもらった。そこでもまた使用方法を間違えそうになった。
しかし結果はまさかの陰性。喜ばしいことではあるのだが、正直1週間休む気満々だった。症状がでても一人でどうにかできるようにとポカリもアイスもゼリーものど飴も全部準備した。愛の不時着をみるように決めていた。「コロナ陽性」を匂わせるような業務の引き継ぎもした。なのに…陰性。とりあえず上司には陰性であることを伝え「また明日から仕事頑張ります」と心にもないことを言っておいた。
ただもやもやした気持ちはその後すぐにどこかへ消えた。買い込んだ食材を食べながら愛の不時着をみ始めて、しっかりどっぷりハマったからだ。その日からキャーキャーいったり、号泣したりと情緒が忙しくなった。四六時中みていたせいで北朝鮮で暮らす夢をみてうなされた。仕事中に来た厄介な客を観ながら「チョ・チョルガンに狙われろ」と考え、休憩時間にはヒョンビンの画像を検索してはにやにや。沼に落ちていくとはこういうことかと新たな世界を知った。
沼落ちして数日後、入院していた父から「トクホのコーラが飲みたいから持ってきてほしい」と連絡が入った。事前に差し入れは飲食物不可と聞いていたのだが、愛の不時着をみている私は妙に気合いが入っていた。「父は工作員みたいにげっそり痩せているだろう。何とか差し入れのミッションを成功させてコーラを飲ませてあげたい」沼に落ちすぎて頭がやられていたのだろう、タオルでコーラをくるみ、ダミーの洗面具を挟み、紙袋の口を縛って看護師さんに渡した。重さを怪しまれないように愛想よく「カイロとか入っててちょっと重いですけど」と余計な一言もつけておいた。看護師さんは中をみることなく預かり、父に渡してくれたらしい。父からの連絡で無事にミッションはクリアしたとわかりひと安心。私は病院近くの公園でダウンロードしていた愛の不時着最終話を観終えることができた。
その後、余韻に浸りながら予定していた耳鼻科に行くと、「鼻が詰まってるね~こりゃひどい」と言われ、薬が追加された。さっきまで寒空のなか号泣してたからね、とは流石に言えなかった。
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