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奇人による幸福までの旅
中島らもの「変!!」という書籍を読んだ。これは著者が知り得た変な人のエピソードを集めたもので半分くらいは下ネタだった。なかでも自分が変な人と説明しなくていいよう、あえて髪型をフランシスコ・ザビエルみたいにしている人の話は衝撃的だった。中身を知って、彼の周りから人が去っていくのを何度も経験したことで、相手が裏切られたと傷つかないよう、始めから変であることを選んだらしい。本当かどうかわからない。しかし読後、こんなにフザケた本で妙に悟ってしまった。
「自分がまともだと考えるのではなく、頭がおかしいと認めた方が生きやすいかもしれない」と。相手がおかしいのではなく、自分がおかしいと思っているとイライラすることも減り、色々なことに諦めがつくのではないか、と。そして自分はおかしいと開き直り、周りの目を気にせず、自分の時間はやりたいことをしよう、とも。
そんなことに気づいたのは12月半ばの弾丸北海道旅行の行きの飛行機だった。どうせ見知らぬ土地へのひとり旅。悟りの境地に立った私は仕事のストレスを発散できるよう買いたいもの、食べたいもの、行きたいところは我慢しない決めた。
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北海道1日目の段階でこのお土産の量。我ながら狂ってると思う。ご当地スーパー巡りが何よりも好きな私は空港を下りてからホテルに着くまであらゆるコンビニ、スーパー、お土産屋をまわって北海道でしか買えないものを買いまくった。
夕方、上記の荷物を一旦ホテルに預け、今回の旅行最大の目的「幸福駅」に行くべく、バスセンターへむかうと「今からだと暗くてみえないよ」と切符売場の人に言われた。帰りのバスの兼ね合いで滞在時間はせいぜい30分。往復約2時間のバス。そのうえ暗い。反対するのも無理はなかった。
しかし、幸福駅を観るために北海道に来たのだ。明日行くと帰りの飛行機に間に合わない。アドバイスなんてガン無視して切符を購入。ライトアップされてるってネットでみたし。何回新日本紀行で泣いたと思ってんだ。
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まさか幸福という縁起の良い名前の場所で肝試しをするとは思わなかった。確かにホームはライトアップはされていたが、バス停から駅までは真っ暗。月明かりだけが頼みという本当の暗闇だった。そのうえめちゃくちゃ寒い。「怖い」「寒い」「怖い」「すごい」「怖い」を繰り返し呟きながら、みてまわった。感動よりひとり見知らぬ土地での暗闇の中にいるという恐怖が勝ち、とても新日本紀行の気分どころではなかった。当然人は誰もいなかった。「恋人との聖地と呼ばれる場所に幸せを望んで一人で来たのに何であたし肝試ししてるんや」とぼんやり思いながら足早に帰りのバス停へ。10分程度待てば帰りのバスがくるのは本当に良かった。
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名前負けがすぎる。めちゃくちゃ暗くて怖えぇよ。幸福の反対側だよ。とはいえ寒すぎるので、中に入る。中に入れば自動で電気が
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つかなかった。真っ暗。扉を閉めると怖いし、開けると寒い。万が一中にいてバスが通り過ぎたら1時間以上ここで待つことになる。それだけは絶対避けたい。そう思い寒さを堪え、歌いながら待合所の外でバスを見落とさないように道の先にガンを飛して待った。カーリー・レイ・ジェプセンを歌う私にバスが気づいて停まってくれたときはちょっと泣きそうだった。今思えば、変というより奇人である。
街灯もほとんどなく、バスも1時間に一本程度の幸福駅はある意味、新日本紀行で描かれた昭和な雰囲気が残っていたと思う。厳しい寒さ、ガチの暗闇、昔ながらの駅舎にホーム。五感フル稼働で経験できたことは本当に良かった。なんて余裕ぶっこいた考えが浮かんだのはホテルにチェックインしたあと。肝が冷えたぜ。