地方でデザイナーとして生きる
武蔵野美術大学では、地方との連携プロジェクトが多数ある。
自分が所属するクリエイティブイノベーション学科の学部生と院生も、参加が奨励されている。
北海道から九州まで、いくつかの候補地から1つ選択して、2週間~1か月ほど滞在する。現地では自分で好きなプロジェクトを組成して活動する。
今回は、都心から地方へ移住し、デザイナーとして活躍されている、「株式会社仕立て屋と職人」の石井挙之氏の実体験をお伺いした。
https://shitateya-to-shokunin.jp/
まず、外の人間が地方に関わるうえで、現地の人にとって一番迷惑なのが、評論家になること、短期間で引き上げてしまうこと、である。
ゆえに、自分は熱意をもって、新しいコトを起こし、モノもつくり、長期で地方と関わろうと考えているが、ハッとするコメントがあった。
「主観によるエネルギーは大事、しかし当事者になりすぎるのは注意、主観、客観のバランスがキモ」
えてして、地方に滞在してその土地の人たちと仲良くなり、自分の考えや活動も理解してもらい始めると、ついつい入り込み、自分も地方の人になり切ってしまう。しかし、本当にそれでよいのか?
地方にはないもの、自分オリジナルを引っ提げて行動するから意味があるのであり、地方を愛するばかりでなく、時には客観的に見て考え、行動することも大事である。
新しいこと生み出す、というクリエイティブマインドは、批判的精神から生まれることも多いので、その点はクリエイティブを生業とする者として忘れずにいたい。
また、地方では新しいことに取り組みたい人達がいる一方で、実態として大半があまり大きな変化は望んでいない。また、外から来て新しいことをしようとする人には懐疑的になる。
これは人間の本能的な部分でもある。
そういった点では、自分は何者なのかを知ってもらうために、見て触れる「モノ」を作って持っていくこと、もしくは「コト」を実装まで持っていくことが、地方に入り込んでいく上で重要なポイントになる。
「都会では埋もれてしまうかもしれないが、地方では自分でやれることが広がる」
という石井氏の言葉も印象に残った。
それは都会から逃げることではなく、自分の価値観による選択だ。
都会には都会の良さがあり、どちらが良いかは人次第だが、より手触り感をもって生きることができ、その分有意義な感覚を得られる可能性が、地方にはあるのかもしれない。