<第2回>ラグビーチームにおける「プロデューサー」とは

チームスタッフとして東芝ブレイブルーパス東京に携わるに際し、肩書きをスポーツではあまり使われない「プロデューサー」としたのは、これまでの人生における自分のキャラクターが、まさにプロデューサーそのものだったからです。

私は小さい頃から、遊びのルールをアレンジしたり、チームを盛り上げるイベントを企画するなど、周囲を楽しませる仕掛けを考えることが好きでした。ラグビーチームの監督、学校の教員、校長(従業員100名以内の中小企業の経営者)、静岡県ラグビーフットボール協会が一般社団法人化する際の代表理事、地方自治体や一般企業、教育関連のアドバイザーなどさまざまな役職を務める中でやってきたのも、そうしたプロデュースのスキルを生かして組織をいい方向に進めることです。たとえば静岡聖光学院の校長時代は、学校の経営をより良くするために「先生が元気な学校」というコンセプトを設定しました。学校改革というとコース制がどうとか、施設がどうとかアピールする学校が多いですが「先生が元気な学校って絶対にいいよね!」とシンプルに考えました。

そこから、様々な方法で教職員のマインドを進化してもらうような取り組みを行いました。
1on1、小人数でのミーティング等々を合計で数百回は実施したでしょうか。


スポーツチームには、事業会社のトップとして社長がいて、強化のトップにGM、現場のトップに監督やヘッドコーチがいます。その中でプロデューサーが担う役割は、結果を出すためにあらゆる方法や手段を考え、実践し、望む結果を残すことだと私は考えています。そして、最終的にはそこに関わるスタッフ全員がいずれはプロデューサー的感覚を持ってもらえることが最終目標だと思っています。

ラグビー界は、トップリーグを発展的に解消し今年から新たにリーグワンが発足しました。ラグビーのパフォーマンスレベルを大きく進歩させた一方、運営面では多くの課題が浮き彫りになりました。チームのプロモーションに関しても、ラグビー専門の運営会社がこれまでなかった中、各クラブがその役割を担うことになり、他競技で実績のあるプロモーション会社に頼った結果(初年度は致し方ない面が大いにあったのですが、、、)

ラグビー本来のカルチャーをなかなか具現化するところまでは到達できませんでした。

2019年のラグビーワールドカップ日本大会があれほど盛り上がったのは、ラグビーという競技の世界観が、多くの人の心に響いたからです。詳しいルールがわからなくても、チームの一体感やフォアザチームの精神、多様性を尊ぶ文化に、たくさんの人が惹き込まれた。プロ野球やJリーグ、Bリーグで成功したやり方をそのまま持ち込んでも、それがラグビーに合うとは限りません。リーグワンの各チームはそのことをもう一度見直して、もっとラグビー特有の魅力を体現できるような取り組みを打ち出していくべきだと思います。ひょっとしたら大相撲や歌舞伎といった世界観に大きなヒントがあるかもしれません。

たとえばラグビーには物語があります。チームにどんなバックグラウンドがあり、どんな歴史をたどってきたのか、どんな思いでシーズンに臨み、何のためにこの試合を戦うのか。そうしたことをクローズアップし、ストーリー化して、どんどん発信していく。まずは「東芝ブレイブルーパス東京」というチームを知ってもらい、興味を持ってもらうことが、多くのお客さんに試合会場へ足を運んでもらうための第一歩だと思います。

そう考えていけば、スタジアムの設備ももっと活用できるはずです。たとえばストーリーを映像化して、試合前にビジョンで流すようにする。スタジアムグルメやグッズショップなどを楽しんでもらうのもいいですが、ビジョンで映像を見ながらお酒を飲んだり、美味しいものを食べたり、それに飽きたらグッズショップを見て回ったりなどできれば、お客さんはなお楽しいはずです。

ラグビーは消耗が激しいスポーツで、15人という大人数でプレーするため、チームは多くの選手をかかえなければなりません。それなのに試合は週1回しかできず、シーズンも5、6か月しかないため、大きな運営費がかかる半面、なかなか収益を上げるのが難しい。こうした競技特性による構造の問題については、リーグ全体で変えていく必要があると思います。一方で、ホストゲームが8試合しかないのであれば、それ以外の部分で年間通してお金を稼げる仕組みを作ればいい。試合のない期間にもチーム活動はしているわけですから、考えていけばできることはいくらでもあるはずです。

東芝ブレイブルーパス東京には東芝府中ラグビー部時代からの、すばらしい歴史があります。チームに関わらせていただいてまだ日は浅いですが、強いポリシーを持ち、ここにいることでいい人間が育っていく環境があるとも感じます。そうしたカルチャーを前面に押し出し、ラグビーの魅力をさらに体現できるクラブにしていきたいと思っています。


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