ペルソナはもうやめよう。
顧客中心の戦略を組織に浸透させていくツールとして「ペルソナ」があります。企業が提供する製品・サービスの最も重要で象徴的なユーザーモデルのことだとされています。われわれ自身も長くペルソナデザインをサービスとして提供してきましたし、今でもクライアント企業からのニーズが多い案件でもあります。そしてペルソナの持つ高い価値は十分に認めていますし、そのことを実感もしています。だけどもうペルソナはやめた方がいいんじゃないかとも感じているのです。
なぜペルソナがいけないのか
ペルソナをやめよう、というのはペルソナそのものに問題があるからではありません。ペルソナデザインのプロセスでは、様々なユーザー情報を収集し、分析したり解釈を加えたりしながら、それらを統合し、実在する本物の人物のように仕上げていきます。この過程で顧客に対する「上から目線」が生まれてしまうことが問題なのです。
顧客理解において重要なことは、しっかりと目線を下げて顧客の目線に合わせ、彼らの欲求や不満を肌感覚で理解していくことです。そしてこの顧客目線になるというのが最も難しいポイントで、顧客志向がなかなか進まない要因でもあります。ペルソナをデザインすることは、自分とは異なる顧客という存在を定義しようとする行為でもあり、結果的にそれによって事業者と顧客という相対の関係をより強化してしまい、真に顧客志向になることを難しくしてしまいます。顧客志向を支援するためのツールが、むしろ顧客からの距離を遠ざけてしまっているのです。
昨今では「共創」や「コクリエイション」といった考え方も注目されています。共創においては事業者による顧客理解にとどまらず、事業活動のメンバーの一人として顧客を招き入れ、顧客と共に価値共創していくことを目指します。このような時代において、事業者側から見た研究対象として顧客を理解する構図自体が時代遅れなのかもしれません。
顧客志向を支援するツールの副作用
実はペルソナと同様、顧客志向を支援するツールそのものが顧客志向を阻む壁となっていることはしばしばあります。例えば顧客インタビューを行う際に、ミラーウィンドウで隔てられたバックルーム併設型のインタビュー施設を使われることがあります。このような施設では一方的にのぞき見している優位で快適な感覚から、本当に顧客目線になることはなかなかできません。真に顧客を理解しようとするなら、実際に顧客と同じ空気を吸いながら対話するのが一番です。取材者側にも適度な緊張感があり、何かに気づこうとする感覚を鋭敏にしてくれるからです。他にも、取材対象を選定するためのスクリーニングリサーチなどにもそういった側面があります。事前に設定した顧客条件に合う対象者だけを「選ぶ」という行為は知らず知らずのうちに「上から目線」や、選ぶ側の立場としての優越感を生んでしまいます。そして顧客目線から離れていってしまうのです。
いずれもツールそのものが良くないわけではありません。正しく使うことで高い効果もあります。しかしながらそれらのツールには副作用もあり、その副作用を理解しないまま使用されているケースが多いのです。真に顧客志向になるというゴールから目をそらさず、手段であるツールに振り回されないスタンスが必要だと思います。