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ショート小説

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5分程で読める『#ショート小説』と、1000文字ぴったりの小説『#1000文字の物語』を書いています。
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#創作大賞2023

ショート小説『聞き耳』※2137文字

霧谷蒼空(きりたにそら)は、会社からの帰り道、いつもと違う道を歩いて帰っていた。 午後に行われた会議に提出した企画書が散々な結果で、どうしても一杯呑んで帰りたかったのだ。 いつもの大通りから一本入った路地を居酒屋を探しながら歩いていると、ふと民家の様な建物の扉に小さな看板が掲げられているに気が付く。 黒い扉に煙草の箱ほどの小さな黒い看板。そこに黒い文字で「BAR -Black-」と書かれている。霧谷蒼空は「よくこんなの見つけたな」と自分でも驚く。 穴場のBARを見つけ

ショート小説『リンゴトラック』※1385文字

「お、リンゴか。懐かしいな」 赤峰夕輝(あかみねゆうき)は、帰路に着く車の中で思わず呟いた。 信号待ちで停まった目の前のトラックの荷台には「リンゴの絵」が描かれた段ボールがいくつも積まれている。 赤峰の実家は青森県でリンゴ農家を営んでいる。小さい頃は良く手伝いをしていたが、中学に入ってからは農園に行くことは少なくなり、大学で東京に出てきてからはほとんど行っていない。 東京でそのまま就職し、仕事も忙しく、地元に帰るのも多くて年2回ほどだ。 そういえば仕事が忙しすぎて去

ショート小説『彩り』※2523文字

教室の外を眺めている。空は青い。 教室の中を眺める。白と黒だ。 この学校に入学して1か月、未だに色を見ていない。空は青いが、学校内だけは白黒だ。 あれは受験で面接に来た時だった。校門を通った瞬間から、あらゆるものが白黒に見えた。 校舎もグラウンドも、下駄箱も、教室も。そして、面接官も。あらゆるものから色が無くなっている。 周りを見渡してみても、そんな話をしている人はいない。たぶん自分だけなのだろう。 最初は戸惑ったが、もう既に慣れてしまった。 ぼーっと、窓の外を眺