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ショート小説

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5分程で読める『#ショート小説』と、1000文字ぴったりの小説『#1000文字の物語』を書いています。
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2024年12月の記事一覧

ショート小説『仕事納め課 監査係』

「仕事納めって、やる気でないよなぁ」 「わかる。もう午後から頭はバカンス気分だよ」 「でも今日までのタスクがあるんだよな」 「うわぁ、それしんどいな」  僕は椅子にもたれかかり背伸びをする。「はぁ~」となんともやる気のない声が出ている。  早く家に帰りたいのか無意識に入口のドアを見ると、バンッと何かが破裂したような音と共に、真っ黒なスーツを着た男性が二人入ってきた。  きっちりとアイロンの掛けられたスーツに白いシャツ、地味な色のネクタイ、髪の毛は綺麗に整えられている。見るから

ショート小説『赤い服のおじいさん』

 あの赤い服を着たおじいさんを撮ろうと思って、スマホを思いっきり上に投げた。  ドシッという音と一緒に赤い服のおじいさんが落ちてきた。「痛てててて…」と腰をさすりこちらを見る。 「危ないじゃないか。急に物を空に投げたらだめだよ。特にクリスマスの夜なんかにはね」 「あなたはだれ?」  僕は尋ねた。 「おや、お前さん、この格好を見てわからないのかい?」  僕は首を横に振る。 「はじめましてだと思うよ。お母さんの知り合い?」  赤い服のおじいさんは小さく首を横に振る。 「君の家に

ショート小説『究極の選択』

「太陽が3つあるとします」  指を3本立てながら先生が言う。  なにそれ、わけわからん、意味ないだろ、だからなに、とクラスの皆が小さな声でヒソヒソと話し始める。 「いま『そんなわけない』と思った人は、常識に捉われています」  先生は真顔で話を続けた。 「かつてアインシュタインは、時間が不変であるという常識を疑うことで、相対性理論を見つけました。当時ではあたりまえであった理論を根本から覆したのです」  先生の声に力が入る。 「太陽がひとつしかないというのは、この時代

ショート小説『太陽』

 真っ赤に染まる夕陽を目の前にして、俺はそっと涙を流した。  太陽が活動を停止すると言われ始めたのは、5年前。突然の出来事だった。ある科学者が、動画投稿サイトで「太陽の活動は、あと5年で止まる」という動画を投稿したのだ。  動画が投稿されてから一ヶ月間での再生数は100以下であった。どこにでもある、ありふれた陰謀論だと誰も見向きはしなかった。しかし、状況は一変する。ある有名動画配信者が、その科学者にインタビューを行ったのだ。  その動画は、1時間で100万再生を超え、次