睡眠障害
今回は、
「睡眠障害」
について考えてみましょう。
「睡眠障害」とは、
「入眠、睡眠に何らかの異常のある状態」
といわれています。
睡眠障害の種類には、
次のようなものがあります。
①睡眠異常
→睡眠自体が疾患であるもの
②睡眠時随伴症
→睡眠中にみられる異常行動
③内科・精神科的睡眠障害
→精神病、不安障害、うつ病、不眠、過眠
④その他睡眠障害
→未だ正確な分類が出来ないもの
よく話題に取り上げられる
「うつ病」
とは、
気分障害の一種であり、
抑うつ気分や不安・焦燥・精神活動の低下、
食欲低下、不眠症等
を特徴とする精神疾患といわれているそうです。
他にも
「うつ状態」
というものがあります。
これは、
うつ病ではないけど
次の3つに分類されています。
①一過性心理的ストレス起因のもの
→心因性うつ、適応障害、急性ストレス障害、
心的外傷後ストレス障害PTSD
②他の疾患の症状として起因するもの
→自律神経失調症、パニック障害
③季節・生体リズムなどの身体の内部変調によって
生じるもの
→内因性うつ病
実際の施術所では、
うつ病、うつ状態の区別は難しいので、
診察時に注意すべき症状は、以下の通りです。
①中枢神経系疾患
→脳血管障害、パーキンソン病、脳腫瘍
②内分泌系疾患
→副腎系疾患、甲状腺疾患、副甲状腺疾患
③炎症性疾患
→関節リウマチ、全身性エリテマトーデス
④歯科治療用重金属中毒
→水銀アマルガム詰物
この症状を持つ患者には
うつ病、うつ状態の症状を合併していることが、
多い傾向にあります。
うつ病の精神状態は
次のような主要症状が2つあるそうです。
①抑うつ気分
→気分の落ち込み、何をしても晴れない
嫌な気分、空虚感、悲哀感、自分には何の価値
もないと感じる無価値感、自殺念慮、
希死念慮、パニック障害
②興味・喜びの喪失
→以前に楽しめていたことにも楽しみを見出せず
感情が麻痺した状態、気力低下、易疲労性、
集中力・思考力・決断力低下
この2症状を、
うつ病診断の
「固有症状」
としています。
うつ病の身体的症状として、
次の4つが考えられるそうです。
①睡眠障害
→不眠症
②消化器系疾患
→急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、下痢
③摂食障害
→食欲不振、ダイエットによる体重減少、
過食による体重増加
④全身各部位の痛み
→下背部痛、頭痛
したがって、
睡眠障害の延長線上に
「うつ病」が存在すると考えても
過言ではないと思われます。
現在の治療法としては、以下の通りです。
①薬物療法
→抗うつ薬、SSRI薬、SNRI薬、NaSSA薬、
抗不安薬、睡眠導入剤、カルバマゼピン、
ベンゾジアゼピン、モノアミン酸化酵素阻害薬
②認知行動療法
→外界の認識の仕方で感情や気分を
コントロールし、抑うつの背後にある認知
の歪みを自覚させ、合理的・自己擁護的認知
へ導くことを目的とした治療法
③電気痙攣療法ECT
→頭皮の上から通電し、人工的に痙攣を起こす
有効性・安全性の高い保険診療の治療法
④経頭蓋磁気刺激法TMS
→頭の外側から磁気パルスを当て、
脳内に局所的電流を発生させることで
脳機能の活性化を図る治療法
⑤断眠療法
→うつ病患者が夜間眠らないことで
うつ症状が急速に改善するという治療法
⑦運動療法
→有酸素運動の有効性
⑧光療法
→強い光を浴びる治療法
私たち治療家が行える唯一の治療法として
「.光療法(光線療法)」
があります。
現在、
光線療法は抗うつ剤よりも有効に効く
第一義的治療法として
医学的に確認されているものです。
うつ病に対する光線療法の手順は次の通りです。
①起床時太陽光線を浴びること
→体内時計を毎日正しくセットするため
②夕方以降は交感神経を興奮させるような激しい
運動や食事をしない事、逆に日中に適度な運動を
すると効果的である
③就寝前に温かい牛乳などでCaを補給する。
④就寝時に軽度ストレッチをする。
⑤眠気発生時に就寝する。
→就寝時刻にこだわらない。
では何故、
光線療法が睡眠障害に有効なのでしょう?
地球上の生物には
「概日リズム(Circadian rhythm)」
が存在しています。
この概日リズムは
内在的に形成されるものですが、
光や温度などで外界の刺激によって
修正されるという研究論文がございます。
概日リズムの基準は以下の通りです。
①リズムが恒常的状態でも約24時間周期を
持続すること
②リズム周期が光パルスや暗パルスによって
リセットされること
③リズムが温度補償性を持つため、一定範囲内の
温度において周期が一定化すること。
この概日リズムは
地球上の動物において、
睡眠、摂食パターンを決定する点において
重要な要素を占めている。
脳波、ホルモン分泌、細胞再生、生命活動
に明確なリズムを与えている。
米国によって
「シンギュラリティ現象
(強い光で概日リズムが一時的に狂う現象)」理論
が実証されたことにより、
人間が夜更かしによる不眠や海外旅行による
時差ぼけの緩和に「強い光が有効」であることが
現在広く知られている。
この概日リズムは
明暗サイクルに深く関与しており、
動物は完全な暗闇の中で
長期間飼育されると
自由継続リズム(Free running rhythm)
に従って行動するため、
睡眠サイクルは日々、内在的周期の長短で
前進後退してしまう。
人間が外界からの刺激を断たれた環境下で
生活する場合、
正確な睡眠・覚醒リズムを示してはいるが、
このリズムは
体温やメラトニン量のリズムとズレている。
この体内リズムの乱れは
規則正しい明暗サイクルを与えることで
解消されるのである。
哺乳類の時計中枢は
視床下部の視交叉上核
に存在しております。
視交叉上核は
光の情報を目から受取り、
目の網膜において
光感受細胞
(棹体細胞、錐体細胞、網膜神経節細胞)
のメラノプシンが、
網膜視床下部路を
通って
視交叉上核に到達いたします。
視交叉上核細胞は
体内から取り出された
外界からの刺激がない状態で培養しても、
独自のリズムを数年間刻み続けることが
できる実験結果がございます。
視交叉上核は
外界からの情報を網膜から受取り、
他の情報と統合し、
松果体へ送信し、
松果体では、
この情報に応答して
メラトニン分泌を行う。
通常、
メラトニンは夜間に多く、
昼間に少ないのです。
概日リズムが
乱調すると
短期的に時差ボケという悪影響を与えます。
時差ボケの主症状は、
疲労、失見当識、不眠があります。
長期的な悪影響は
心血管病の発生と悪化により
身体の健康を深刻なものにいたします。
逆に
体内時計を考慮して投薬することで、
薬の効力を増し、
副作用や毒性を減らすことができる可能性
が指摘され始めております。
光線が
生体時計を調節する能力は
位相反応曲線に依存いたします。
睡眠覚醒リズムの位相によって、
光線は生体時計を
前進させたり後退させたりします。
必要な光線の要素は強さと波長(色)で、
体内時計を調節する能力
を決める重要な因子となっている。
光受容タンパク質メラノプシンは
青色光(420~440㎚)
で効果的に励起されます。
逆に
真夜中の強い光線は
体内時計を乱調させる研究結果もあります。
このことから、
光線とくに青色光線を網膜に照射することで、
体内時計を調節し、
睡眠障害を解消することによって、
うつ病症状を軽減することが
可能であると思われますが、
うつ病の怖いところは、
うつ病の症状が改善したように見える時、
同時に躁状態に陥っている可能性が高く、
操状態の移行期に
急降下的にうつ症状を呈することがございます。
このタイミングの対応を誤ると
患者を最悪の事態に
追い込むケースが多いので、
精神科医師のアドバイスが
必要であると考えます。
したがって、
治療家単独で
うつ病に対応するには
医療機関とのタイアップは
必要不可欠であると思います。