[君たちはどう生きるか]
「世の中とはこういうものだ。その中に人間が生きているということには、こういう意味があるのだ。」などと、ひと口に君に説明することは、誰にだってできやしない。たとえ、説明することのできる人があったとしても、このことだけは、ただ説明を聞いて、ああ、そうかとすぐにのみこめるものじゃないのだ。英語や、理科や、算数なら、ぼくでも君に教えることができる。しかし、人間が集まってこの世の中を作り、その中でひとりひとりが、それぞれ自分の一生をしょって生きていくということに、どれだけの意味があるのか、どれだけの値打ちがあるのか、ということになると、ぼくはもう君に教えることができない。それは、君が、だんだん大人になっていくにしたがって、いや、大人になってからで、まだまだ勉強して、自分で見つけていかなくてはならないことなのだ。
人間としてこの世に生きているということが、どれだけ意味のあることなのか、それは、君がほんとうに人間らしく生きてみて、そのあいだにしっくりと胸に感じ取らなければならないことで、はたからは、どんなに偉い人をつれてきたって、とても教えこめるものじゃあない。
まず肝心なことは、いつでも自分がほんとうに感じたことや、真実、心を動かされえたことから出発して、その意味を考えていくことだと思う。君がなにかしみじみと感じたり、心の底から思ったりしたことを、少しもごまかしてはいけない。そうして、どういう場合に、どういうことについて、どんな感じを受けたか、それをよく考えてみるのだ。そうすると、あるとき、あるところで、君がある感動を受けたという、繰り返すことのない、ただ一度の経験の中に、そのときだけにとどまらない意味のあることが分かってくる。それが、本当の君の思想というものだ。これは、つねに自分の体験から出発して正直に考えていけ、ということなんだが、このことは、コペル君、ほんとうに大切なことなんだよ。
肝心なことは、世間の目よりも何よりも、君自身がまず、人間の立派さがどこにあるか、それをほんとうに君のたましいで知ることだ。そうして、心の底から、立派な人間になりたいという気持ちを起こすことだ。一つ一つ判断をしていくときにも、また、君がいいと判断したことをやっていく時にも、いつでも、君の胸からわき出てくる、いきいきとした感情に貫かれていなくてはいけない。
人間としてどう生きればいいのか、自分の頭で考えて生きることの大切さ。 中学生の頃は、「生きる」ということがどういうことなのか1人で考えていたことがよくあった。大人になった今もたまに考えるが•••。 自分に子供ができたら是非読んでほしい1冊です。