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バルナック ライカⅲbを買った時の様々なオマージュ。


ライカM3を使っていて、ほどなくバルナック ライカが欲しくなった。

私はMFのフィルムカメラばっかり使っている。
私が写真を始めた頃はMFのフィルムカメラしかなかったので、一生懸命学び、一生懸命練習したので、MFのフィルムカメラが原点であって抵抗がないというだけである。ちなみに一番好きな写真の鑑賞方法はライトボックスとルーペでリバーサルフィルムに没頭することである。

現代ではちょっとだけストレインジであることは自覚している。
デジタルカメラを否定するわけでもなく、AFよりも MFの方がいいと思っているわけでもない。
ただ、一度途切れたカメラ歴の中でAFすら経験することが無かったので比べることが出来なかった、それだけである。
そんな目で暖かく見守ってくれると幸い。

まず、言っておこう。
ライカを味わいたいならM型ライカを買え。
明るいファインダーの中で別枠で出てくる画角を参考に構図を決めて、狙いたい対象にピントを合わせる。
その行為には大きな視野から切り取る構図センスと共に距離感を意識するというM3により発明されたライカの思想が受け継がれている。


そういった事を言っておきながら、バルナック ライカが欲しくなった理由とは。

その1.  35mmフィルムカメラの発明者オスカー バルナックへのオマージュ。
現在のいわゆるフルサイズセンサーに繋がる記録媒体のサイズはオスカー バルナックが発明した試作機「ウル ライカ」に始まる。それまで映写フィルムの規格であった35mmフィルムを転用したスチル用フィルム35mmの誕生である。

その後、コダック社により現在まで続くパトローネ入りのカートリッジフィルムが誕生し、昼間でもフィルム交換が可能となった。コダックではこのフィルムを135と呼称したため、ISO規格では135フィルムと呼ぶ。
ライカ発祥であるため、ライカ判と呼ぶことも。
暗室で装填するとフィルム交換時に露光する2コマ分余計に撮れる。
フィルム巻き上げに利用する上下の穴(パーフォレーションという)は映写フィルムと同じで、この仕組みも映写フィルム転用ならではのアイディアなんだと思う。

つまり、「ウル ライカ」に始まるバルナック ライカの系統は35mmフィルムと同時にパーフォレーションによるフィルム巻き上げ、カートリッジフィルム(ライカⅱから)というフィルムカメラに共通する仕組みを発明させたということになる。

また、ライカⅰの途中でなされた共通マウントでのレンズ交換及びフランジバック(レンズマウントからフィルム面距離)の統一というレンズ交換式カメラの基本もライカによって発明された。

ライカⅱではレンズのピントリング連動式距離計内蔵が搭載されることにより、カメラ単体でのピント合わせが可能となる。更に距離計窓の間でほぼレンズの真上にファインダー窓を置く構成(ライカ特許)により、ファインダーの視差(パララックス)が小さくなった。ファインダーから覗く視野が撮影視野とほぼ同じになるというのは特に一眼カメラでは当たり前のことがライカにより発明されたといってよい。

このように1913年に試作された「ヌルライカ」から1932年に発売された「ライカⅱ」のたった19年間でオスカー バルナックは現在のカメラの基本構造(レンジファインダーと一眼の違いは置いといても思想的には同じ)を完成させた。
この偉業に対しては分野は異なれど同じ設計者としてどうしてオマージュしないでおかれようか。

「ヌル ライカ」1913年試作 出典:パブリックドメイン
「ライカⅱ」1932年発売 出典:パブリックドメイン

実はオスカー バルナックはツァイス時代、1905年に既に35mmフィルム巻き上げ/シャッターチャージ同調のカメラを発明している。が、ツァイス社には受け入れられなかったようだ。また、私自身画家で山岳部で本格的に写真を始めたということもあり、幼少には画家になりたかったというオスカー、週末には登山をして写真を撮っていたというオスカーにはシンパシーを感じる。

オスカー バルナック 出典:パブリック ドメイン


2.ライツ レンズへのオマージュ。
ライカM3を買って、多分に漏れず、レンズ沼にハマった。
M3のマウントはバヨネット式のMマウントだが、フランジバックは1mmちょうどバルナック ライカよりも長いので、幅1mmのマウントアダプターを介すれば、M39スクリューマウントのバルナック ライカ用のレンズをM3に違和感なく装着出来る。気を付けなければならないのが、M3はマウントの切り欠き形状により、レンズの焦点距離に合致したフレームを出現させる仕組みになっているので、焦点距離に合ったマウントアダプターを着けなければならない。

35mmフィルムが誕生する前は、フィルムそのものが大きく、等倍でプリントするか、トリムして印刷するかのどちらかであった。
35mmフィルムの場合には、引き延ばしてプリントする必要があった。
当然、新技術であるので、ライツ社は引き延ばし用のレンズもカメラと併売していた。

ライツ社(現ライカ社)の前身は1849年に設立された顕微鏡メーカーである。当時の医療先端はドイツであり、顕微鏡などの医療先端技術もドイツにあった。今でも著名な光学機器メーカーであるツァイス社も同じヴェッツラーにある。
光学技術の素地は既にあり、ライツ社による優れた引き延ばし技術があったのも、35mmフィルムのスタンダード化に影響しているだろう。

次に、優れた引き延ばし技術があっても、フィルムそのものに優れた描写の情報量が無ければ、それまでのフィルム直写式写真の劣化版にならざるを得ない。
そこでライツ社はレンズ交換を容易にするカメラシステムを発明し、更にカメラのレンズの高性能化に注力した。

今でこそ、コンピューターを使った光学設計技術、同じくコンピューターを使った精度の高いレンズ製造技術、優れたコーティング技術により、レンズは次から次へと高性能化しているが、それらが無い時代のライツ レンズに於いても優れたレンズが多いのには驚嘆するしか無い。
光学設計技術は兵器でも分かる。第二次世界大戦時の戦闘機/攻撃機の光学照準器はドイツがずば抜けて性能が良い。

最も有名なWW2時代のドイツ製光学照準器Revi C/12D 二枚ある内の前方側は収納式サングラス。
出典:パブリックドメイン
横影 前面にレンズがあり、斜めの板に照準を投影することで視差を最小としており、
かつ、無理のない姿勢で周りも見ながら照準が出来るようになっている。ツァイス製。 
出典:パブリックドメイン
照準された状態。手前に巨大なレンズが見える。サングラスを上げた状態。
出典:パブリックドメイン

ちなみに我が国も負けてはおりません。(ドイツからの技術提携はあったようですが)こちらは乾電池式。電池切れのための簡易照準があるのがエンジンの性能に悩まされた日本らしい。エンジンからの発電を少なくしたかったのだろう。
九十八式。富岡光学製。三菱零式艦上戦闘機等に装備された。

こちらもサングラス付き。簡易照準を起こした状態。
出典:パブリックドメイン
サングラス、簡易照準を退かした状態。
出典:パブリックドメイン
照準 出典:パブリックドメイン

毎度、話が脱線するのも私のnoteの面白さと理解頂きたい。
そういう、ライカ スクリューマウントレンズを本来のスクリューマウントカメラで使いたいとの思いからバルナックライカが欲しくなった。

⒊ どのバルナック カメラを選べばよいのか。
ここまでの経過を辿れば、「ウル ライカ」か「ライカⅱ」だろう。
が、実用に耐えないものを持つつもりはない。
「ライカⅱ」はほぼバルナック ライカの完成形といってよいと思うのだが、シャッタースピードが1/500秒までしかないのである。
しかも、1/20秒以下のスローシャッターもない。
「ライカⅲ」になってスローシャッターが追加されたが、最速は1/500秒のままである。
そこでシャッタースピードが1/1000秒になった「バルナック ライカⅲa」以降から選ぶことにした。

当初は「バルナックⅲa」を買うつもりだった。最小最軽量である。運が良ければドイツ軍御用達機種などのコレクターズアイテムも手に入るかもしれない。
しかし、「バルナックⅲb」からはファインダーブロック部がダイキャストになっており、精密機器部の距離計の精度が上がっている可能性が高い。
事実、オール板金加工の「バルナックⅲa」では、距離計窓は左端にあるが、ファインダー接眼窓はほぼレンズ上に配置したファインダー窓と直接繋がっているため、距離計窓とファインダー窓とは20mmくらい離れている。
「バルナックⅲb」ではファインダーブロックのダイキャスト化により、ファインダー機構にプリズムを使用した少し複雑な機構化に成功し、距離計窓とファインダー接眼窓とが接する配置になっている。
代償は高さが1.2mm大きくなって、重量も増した。
「バルナックⅲc」では、ボディもダイキャスト化して、堅牢さを増した。
大きさも重量も増大。

バルナックⅲa
左端の窓が距離計窓(ピントを合わせるための窓)。離れているのがフレーミング用のファインダー窓。
出典:パブリックドメイン
バルナックⅲb
距離計窓とファインダー窓が隣り合っている。
出典:パブリックドメイン

正直、実物を見ないとなんとも言えない。
名古屋にある「大塚商会」に行って、触らせてもらうことにした。全ての機種があった。

まず、大きさと重さだが、元々が小型軽量なこともあって、それぞれ大きさと重量の差は結構あった。
「バルナックⅲc」以降は次にアルファベットがfに飛んでgが最終バルナックになるのだが、「バルナックⅲc」以降はそんなに変わらない。今を思えばブライトフレームが搭載された「バルナックⅲg」のファインダーを覗いてみればよかったと思うのだが、当時は最小最軽量しか頭に無かった。

次に接眼窓だが、思いのほか、「バルナックⅲb」はその気になれば両方一度に覗け、眼球の動きだけでどちらかに集中することができる。心配していたファインダーの暗さもそう気にならない。距離計の二重像もくっきり見える。
「バルナックⅲa」は顔を動かさなくてはならず、これならば外付けファインダーを覗くのとあまり変わらないように感じた。

バルナックⅲb ファインダー。画角は50mm。
距離計窓。二重像がはっきり見える。


その気になれば両方一度に見える。

気になったのが、ファインダーで視線の角度で如何にでも視野の中心が変わってしまう。
なるべくファインダー窓に垂直に見ろということだろう。
それを癖つけて、今まで困ったことはない。
M3ではそういう事がないので、コレを気にする人にはやっぱりM型ライカをお勧めする。
気にならないのは私がM3を同時に所有していて、フレーミングをシビアにしたい撮影ではM3を使えばいいと割り切っている可能性がある。

で、晴れて「バルナックⅲb」を買ったのだが、フィルムカウンターが正常に動く個体は少なかった。
ことさら気にならなかったが、「バルナック専門店」のサイトでは動画で状態を説明していて、フィルムカウンターも正常に動いていた個体があったので、買い換えた。
それがこのブラックペイントの「バルナックⅲb」だ。

サビサビなのは私の使い方が悪いだけ。
買った時はピカピカだった。


⒋ バルナックⅲbとライカM3との大きさ比較。

着けているレンズはバルナックⅲbはLeitz Elmer f=5cm 1:3.5。ライカM3はSummicron f=5cm 1:2。いずれも沈胴レンズ、沈胴状態。

レンズを出した状態。


レンズカバーを取った状態。
このレンズはレンズ前面に絞り調節があるタイプ。

⒌ バルナック ライカで注意する点。
バルナック ライカ全てにおけることだけど、フィルム巻上げノブと連動してシャッタースピードダイヤルも回るので、シャッタースピードの調節はフィルムが巻き上がった状態で、ダイヤルを上に引っ張り、回す。
別途、自分でシャッター切った後の所で印を付ければ良いのかもしれないけど。
後、私のⅲbは大陸系表示。現在ポピュラーな倍数系ではない。
露出計を買う時は、アナログ指針タイプを選んで行間を読み取って使うのがいい。

私が使っている露出計。二万円くらい。軽い。

バルナックに限らず、一眼レフ以外のカメラはレンズからの光がシャッター幕に直接当たるので、撮影時以外はレンズキャップは必ずすること。


Chamber f=9cm 1:2.2 を装着した所。
マウンテンエルマー“ Elmer f=10.5cm 1:6.3 を装着した所。

私の「バルナック ライカⅲb」はシリアルナンバー調べで1938年製です。

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