「NBAバスケ超分析 語りたくなる50の新常識」 図&グラフ制作の裏話
先月出版されました、佐々木クリスさん著「NBAバスケ超分析 語りたくなる50の新常識」において、図版の制作を担当させて頂きました。
私自身、小学5年生からバスケを始め、中学の頃からNBAを少しずつ見始めて早25年が経過し、今もいちNBAファンとして日々の試合を楽しんでいます。(主にマブスの試合ばかりですが。。)
そんな中で今回のようなNBAに関するお仕事の担当、さらには以前から動画などを拝見させて頂いていたクリスさんの著書ということもあり、とてもとても光栄なお仕事でした。
このような大変重要なお仕事をさせて頂きましたので、仕事の記録という点も踏まえ、私目線での図版制作の裏話をいくつかまとめておきます。
お話の内容は大まかに以下の3点です。
⒈「フォーメーションの図」制作のポイント
⒉「データをまとめたグラフ」制作のポイント
⒊ 膨大な集計データ量に感服!
ちなみに今回トータルで100点以上の図版を制作しました。
修正作業分も含めるとさらに追加になりますので、私はグラフィックやWEBのデザインの仕事を15年ぐらいしておりますが、1案件でここまで沢山の図を作ったのは初めてです(笑)
点数が多い分、時間もかかりましたが、非常に楽しいお仕事でしたので全く苦ではありませんでした。
なお、本記事に使用している図やグラフの元データなどは、各所に許可を得て掲載しています。
また、今回のお話は具体的なグラフの作り方といったデザイナー向けの内容ではなく、グラフや図ってこういう感じで作っているんだ、こんなにデータ量があるんだ、というライトな制作裏話になります。
⒈ 「フォーメーションの図」制作のポイント
今回制作した図版は大きく分けると、「フォーメーションの図」と「データをまとめたグラフ」の2種類あります。
「フォーメーションの図」は、クリスさんが用意してくださった図を元にグラフィックに起こします。
こちらはベースのデザインができてしまえば、ほかのフォーメーションの図も同じ要領で制作していけばいいので、そこまで時間はかかりません。
具体的には下記のようなものです。
バスケットコートはNBAのコートの仕様をそのまま踏襲するので問題はないですが、プレーヤーの形状については少し悩みました。
このような図は情報量が多すぎるとごちゃごちゃして見にくくなりますので、シンプルにしつつも分かりやすくなることが大事です。
ここでのポイントは「オフェンスとディフェンスの区別」「プレーヤーの向いている方向」「プレーヤーを示す番号の表記」の3点です。
「オフェンスとディフェンスの区別」
これに関しては2色刷りという仕様が大変効果的でした。
モノクロ印刷の場合、使用するインクはブラックのみになるため、白黒で攻守の選手を表現する際は、黒とグレー、黒と白、黒と模様(斜線など)というような分け方になりますが、直感的な分かりやすさには欠けてしまいます。
ですが、2色刷り(本書は赤と黒のインクを使用)では赤のほうが主張の強い色になりますので、その節での主役(オフェンスの節ならオフェンス側)を赤くすることで、自然と主役に目が行くようになり、文章中の説明が視覚的にもそのまますんなり入ってきます。
「プレーヤーの向いている方向」
当初は丸だけでプレーヤーを表現することも考えたのですが、本書ではピック&ロールの説明が多く、特にスクリーンの位置取り(向き)が大事なポイントになりますので、両手を追加することでプレーヤーの向いている方向を定めました。
2つの棒をくの字になるようにし、人物の丸に追加するだけで向きが表現出来ますので、この程度であれば情報量の過多にはならないです。
「プレーヤーを示す番号の表記」
本書後半の方になると複雑なフォーメーションの説明が増え、プレーヤーに番号表記が追加されます。(1やx1など)
プレーヤーの横に番号を追加すると、情報量が増えてごちゃごちゃしてきますので、プレーヤー自身に数字を明記するようにしました。
プレーヤーの赤や黒の上に白抜きで数字を配置できますので、この点でも2色刷りの効果があり、視認性が担保できています。(片方が黒ベタに白文字、もう片方が白背景に黒文字だと、目がチラついて見にくくなります)
また、フォントもDINというものを使用し、フォルムがしっかりとしたコンデンスドフォント(横幅を狭くした書体)なので、小さなスペースでも可読性が担保できるものになっています。
これらの3点を考慮してベースの図を作ったら、あとは他の図に展開していくことになります。
⒉ 「データをまとめたグラフ」制作のポイント
続いて「データをまとめたグラフ」についてです。
こちらについても、ある程度ベースのデザインを制作してから展開していくわけですが、グラフのパターンがそれぞれ異なるので、その都度どのようにすればいいか考えながら制作を進めました。
具体的には下記のようなものです。
グラフの種類や見せ方は基本的に一任されていたため、集計表をもとに出来るだけ視覚的に分かりやすい折れ線や棒グラフの形状にまとめるようにしました。
ここでのポイントは「情報の取捨選択」「要素のメリハリ」「2色刷りを活かして、より分かりやすく」の3点です。
「情報の取捨選択」
グラフの元データとなる集計表にはスタッツの種類やシーズンごとに各データがまとめられており、それらを全て載せたいところではあるのですが、やはりグラフによって視覚的な見やすさを担保することが優先されます。
時代における変化を、より直感的に分かりやすいものとするためには、使用する情報の取捨選択が必要になります。
グラフの制作にあたって、各グラフの掲載位置が指示された原稿も共有されていたため、本文中で述べられている内容で、最も重要な数値を中心にピックアップし、それ以外の付属的な情報は時折省略することもしました。
「要素のメリハリ」
フォーメーションの図と同様、データ自体が主役になりますので、それ以外の装飾的な要素は極力省きました。
制作に使用したソフト「Illustrator」でデータを自動的にグラフ化できるのですが、そのままだとグラフが均一的でメリハリのないものになるので、目立たせたい要素とそうでない部分の差をつけることに注力しました。
具体的には下記です。
調整前のグラフでは、割合が0〜25%の範囲でグラフ化されており、それぞれの差異が分かりにくくなっています。
このグラフは22〜25%の範囲で変化のあるデータを表していますので、20%以下の部分を省き、より割合の違いが分かりやすくなるようにしました。
また、縦軸・横軸の数字や罫線は黒やグレーで抑え、グラフ自体を赤にすることでも視覚的なメリハリをつけることが出来ます。
デザインというと一般的に「装飾」のイメージを持たれることがよくあります。
しかし、情報を整理して、より伝えたいものを明確に伝えること、逆に言えば優先度の低いものは思い切って捨ててしまうこと、が何よりも重要です。なので、その点はグラフ制作に関わらず、デザインにおいては共通して重要なポイントとなります。
「2色刷りを活かして、より分かりやすく」
本書は赤と黒の2色刷りでの印刷ですので、フォーメーションの図と同様、グラフの制作では表現の幅が一気に広がります。
グラフ内の情報量が増えるほど、何を図示しているのかが分かりにくくなりますので、赤と黒(グレー)で要素を区別し、特に重要な要素を赤にすることで、伝えたい情報をしっかり強調することができます。
ちなみに今回の2色刷りの赤色は、DIC199という特色を使用しました。
特色を使用することのメリットは、事前に色見本で色を確認できるので、仕上がりイメージを想像しやすく、スムーズな制作がしやすいことです。
通常のカラー(CMYK)の場合、制作側と印刷会社側で全く同じ色味を共有できているわけではないので、デザインと仕上がりの色味が多少異なることもあります。
しかし、特色であればお互いに共通の色見本を持っているため、認識を共有しやすい点がメリットです。
ただ、2色刷りもモノクロ印刷に比べてそれなりに予算もかかりますので、このような仕様にしてくれたことは、デザイナーにとっては大変ありがたいことでもありました。
⒊ 膨大な集計データ量に感服!
そして制作を踏まえての感想ですが、ただただ膨大なデータの量に感服しながら作業をする日々でした。。
特に項目ごとに集計される前のデータの量には驚くものがありました。
例えば下記のようなものです。
こちらは44節「11度の優勝をつかんだトライアングルオフェンスが通用しない?」内に使われている集計前のデータの一部ですが、相当なデータの量ですよね。。
さらに凄いことに、上記のエクセルのシートタブの部分を見ると分かりますが、このボリュームのシートが全部で20枚ほどあります。
1節の1~2つのグラフの元データでこの量です。
他にも23節のコーナー3の箇所のグラフや、31節の身長・体重別のグラフ、33節のビッグマンが3Pを打つグラフなども、膨大なデータ集計量の元に成り立っています。
「データ集計のコツ」「データ集計の裏側」という内容だけで1冊本ができてしまいそうですが、なかなか真似できるものではないですね。。
入稿直前に急遽集計し直したデータを元にグラフを差し替えたりと、大変な局面もありましたが、何とか締切までにデータを納品することが出来ました。
後に完成形となった見本誌を頂きましたが、印刷具合も問題なさそうで一安心。
著者のクリスさんや編集の高橋さんは勿論ですが、データ校正の越後谷さん、データ集計協力の平野さんの尽力無くしてこの本はなかったと思います。
皆さんにBIG感謝!
最後に改めて、今回のプロジェクトに参加できたことは本当に光栄でした。
皆一丸となって良いものを作ろう、クリスさんの本を最高のものにしよう、という意気込みもすごく伝わってきました。
クリスさんの考えたコンテンツを、編集、データ校正・集計、デザインでまとめ、そこにMQさんの素敵なイラストを交えてビジュアルとしての分かりやすさや親近感、可愛らしさも加わりました。
いちスタッフとしても、とても良い本が出来たと思っていますので、NBAファン、バスケファンに留まらず、1人でも多くの方に読んでもらえると嬉しいです。
スタッフの皆さん、そして買って読んでくれた皆さんにBIG感謝ですね!