谷口恵子 『1ヶ月で洋書が読める英語リーディング』

★★☆☆☆

 本屋でたまたま目につき、ぱらぱらとめくり、つい買ってしまった一冊。始めてからしばらくして、失敗したかなあ、と思ったものの、もったいないので全部やってみました。うーん、貧乏性。

 内容はいたってシンプルです。400〜500ワードの英文を毎日読むだけ。ただ推奨しているやり方が一風変わっています。

 同じ英文を合計5回読むのですが、読み方はこうです。

 1回目:ふつうに読む。
 2回目:単語や熟語、訳文と照らし合わせて内容を理解する。
 3回目:速く読む。
 4回目:もっと速く読む。
 5回目:もうこれ以上は無理なくらい速く読む。

 速く読もうとすると、当然、構文や内容はつかめなくなっていくのですが、それでもよいそうです。ネイティブが読むように、前から順に、遡らず読むのに慣れることを主眼にしているからです。

 それ自体はまあ正しいだろうし、やり方に文句をつける気もないのですが、訳例にあやしい箇所がいくつかあるのが気になりました。訳文自体が英文和訳っぽいのは、構造をわかりやすくするためと好意的に解釈しても、首を捻ってしまう誤訳がちらほらありました。
 どこだったか忘れましたけど、人を形容するsquareを「四角い(人)」と訳されていて、それはちょっとないだろうと思いました。体格なら「がっしりとした(人)」でしょう? 四角い人って。

 他にもこんな訳がありました。

“It is always the man who has tasted life who demands more of it.”(原文)
「人生にもっと多くのものを求める人たちは、いつもすでに人生を味わっている人たちである」(訳例)

とあるけれど、正しくは

「人生を味わっている人たちが、いつも人生に多くのものを求める」だと思うのです。
(関係代名詞の二重限定なわけですが、後ろの関係代名詞を先に訳す必要がわからない)

 この文章だと違いがわかりづらいですが、下の例文だとわかりやすいと思います。

“Man is the only creature (that) is a mammal that uses language.”
「人間はほ乳類の中で、言語を使う唯一の動物です。」

 これを「人間は言語を使う生き物の中で、唯一の哺乳類です」とすると、意味が変わってしまいますよね。
(まるで他にも言語を使う生き物がいるように聞こえる)

 語順=情報を得る順番なわけですから、当然意味にも影響します。
 日本語に訳す際に、必ずしも英語の語順を守れるわけではないので、語順をかえて訳すのはよいのですが、意味が同じになるからといって、そうしていいわけではないと思います。
 特に、英語学習を焦点にした本でこういう訳はどうかと思います。

 そうした点でも、この本はいまひとつあやしい感じがしました。
 なので、あまりお薦めはできません。英語の学習に関してもっといい本がいくらでもあると思います。

 ちなみに、僕の翻訳友達にこの本を見せたら、「もう洋書を読んでるじゃないですか?」と言われてしまいました。
 もっともな指摘です。

 それでも、まるで無駄だったとは思いません。
 つまるところ、どんなものであれ英文をきちんと読むことは、英語力を高める上では無駄にならないということですね。触れないよりは触れる方がいい。

 そうはいっても、タイムマシーンでこの本を買う前の自分に声をかけることができるなら、「おい、やめておけ」と言いますけど。

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