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見知らぬあなたへ想いをとどける
見知らぬ人に手紙を送り、見知らぬ人から手紙を受け取る。
そんな不思議なやりとりを行う郵便局が先月、ひっそりと幕を閉じた。
郵便局があるのは熊本県の津奈木町の福浜。
浅瀬に打った支柱の上に立つ廃校を利用したこの場所は、潮が満ちると海に浮かぶように見えるという。
この郵便局を作ったのは、同県八代市出身の映画監督、遠山昇司さん。
2013年6月に「海の上の小学校」として知られた旧赤崎小(10年3月閉校)にポストを設置し、アートプロジェクト「赤崎水曜日郵便局」としてスタートした。
以来、多くの反響を呼び、国内外から6000通を超える手紙が寄せられたという。
SNSなどに親しむ若い世代にも利用されていたことに対して、発案者の遠山さんは次のようにコメントしている。
「SNSは匿名性が強いと相手を思いやれず、匿名性が弱いと気を使って疲れる。ささやかなつながりが求められていたのでは」
たしかにSNSでは相手と簡単につながりを持つことができる一方で、「距離感」を保つのが難しい。
日常的に頻繁に会うような親しい相手には、SNSでそれほど頻繁にやり取りする必要はないように思えて、ただつながりを保つようになりがちだ。
一方、現実の世界で会ったことがない人は、相手との連絡が途絶えないように必要以上にやり取りを求めてしまうこともある。
仮想の世界でのやり取りは、現実の世界でのコミュニケーションとは明らかに違った「距離感」が必要とされる。
その「距離感」がうまく保てなかったとき、私たちは身も心も疲れ果ててしまう。
見知らぬ人に手紙を送り、受け取るというコミュニケーションには、SNSで感じるような微妙な「距離感」は存在しない。
誰に手紙が届けられるかは分からないから、相手のことを意識せずに自分の想いを素直に書ける。
そしてその想いは、膨大なデジタル情報の渦に沈むことなく、確実に誰かに届けられる。
手紙の中で語られるのは、誰にも語られないような切実なものから、日常のほんのささいな出来事を綴ったものなど、さまざまなものがあることだろう。
それらはすべて「誰か」の胸の内にあったもので、「誰か」に語られなかった言葉でもある。
それが内に秘めた想いであればあるほど、不思議と自分の手を使って書いた手紙でしか書き表せない。
日常生活の中で忘れ去られてしまいそうな心の中の小さな想い。
その小さな想いをつなぐことの大切さは、仮想の郵便局が消えてもなお、語り継がれていく。
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