人材定着について思うところ
外国人材採用のお手伝いを3年続けてきました。もともと当社では日本語が上手な人材を中心にご紹介をしていましたが、紹介だけではなく、入社後のフォローにも力を入れていました。その結果として、あまり早期に退職する方はいませんでした。
今回、ちょっと調べてみたところ、2017年から2018年の1年間に当社から紹介した人材の離職率は 14.3% でした。母数が違いますので、単純比較はできませんが、厚生労働省が発表している、日本国内の労働市場における1年間の離職率は 16.2% でしたので、まあまあ、良い結果で推移していると思っています。外国人材の割には、数字が良かったのでホッとしています。
というような自慢話は、今回のテーマではなく、実は、今回のテーマは、タイトルにある通り、外国人材に限らず、【人材定着】についてです。
そもそも、採用力のある会社様の多くは、実は、定着力も高く、一方、定着力が低いから、採用力も低いというケースが沢山あるということを、実体験として見てきました。まずはそのあたりのお話からしてみたいと思います。
もっと言いますと、定着力が実は低いのに、採用力だけ高いという会社様もたまにあり、これは人材業界にとっては、【いい鴨】(お客様に何という言い方。。そうなって欲しくない、ということを目的に今回のテーマ選びしていますと伝えたい)ですが、定着力が低いと、入社した人材が不幸になることもあるので、そのあたりへの注意喚起という意味も込めて、今回のテーマを選びました。
従業側と会社側の認識のギャップ
労働政策研究・研修機構『若年者の離職理由と職場定着に関する調査』から、一部データを抜粋して紹介します。
実は、従業員が望んでいることと、会社側が定着(というか従業員満足度)に効果的だと考えていることに、大きなギャップがあります。経営者視点と労働者視点の違いと言ってしまえば、それまでなのですが、実は両者の認識には大きな溝がありました。
具体的には、従業員は、給与が上がること、お休みが取りやすいこと、希望を活かした配置、仕事と家庭の両立(ワークライフバランス)を期待しています。これらは、転職希望の理由の上位でもあり、私が日々の転職希望者との面談でも良く聞く話ですので、私も実感として強く感じています。
一方、会社側は、スキルアップ、研修制度の充実、希望を活かした配置、若者が話しやすい雰囲気、若年者に対する目標管理、自己啓発の支援を挙げています。調査結果(抜粋)は以下です。
調査質問: 人材定着に効果的な会社内の施策とは?
<従業員からの回答>
1位. 賃金を上げる
2位.休日を取りやすいようにする
3位.本人の希望を活かした配置
4位. 仕事と家庭の両立支援
<会社(経営者)から回答>
1位. 企業内訓練(研修)の充実
2位. 本人の希望を活かした配置
3位. 若者が会社内で話しやすい雰囲気
4位. 若者への目標管理の実施
5位. 自己啓発への支援制度の実施
となっています。従業員の3位と会社の2位が共通項目ですが、その他は、まったく回答が異なります。もちろん、研修が充実していることや、社内の話しやすい雰囲気作りはあった方が良いです。しかし、それが会社に定着する理由になるか…と言われるとそうではない。辞めるか、辞めないかの判断軸には関係がないということなのです。(←ここ重要です)
給与をあげられない場合の対策
そもそも、給与とは、売上に対するコストとして考えるのが一般的なので、業種、業界、ビジネスの内容、サービス、競合環境によっても様々です。当然に人材を定着させるために、賃金をすぐに上げることは、そう簡単にできないですし、日本一給与が高い会社を目指すのか?ということには当然に無理があると思います。私も経営者なので、そこはよくわかります。加えて、社内を見ても、役割に応じて、優秀な人材と、そうではない人材との差も出てきますので、全員に対して給与をあげていく、なんてこともあり得ません。
では、どうするべきなのか?
人材定着を考える場合、ひとつの施策だけで効果を得ようとしても限界がありますし、実は、全く意味がないと思います。複数の施策を、順番を守って積み上げていくことで、全体として定着に効果が出てくると思います。
この『順番を守って』というところを、今回は強調したいのです。
自分がサラリーマンだった経験や、会社の採用担当だった経験、そして、現在の人材エージェントとしての仕事を通じて、多くの会社、多くの転職希望者、従業員、経営者、人事担当者とお話をして、強く実感として感じていることです。
経営者、人事担当者の方は、お叱りを覚悟で言えば、前述の調査結果からもわかるように、人材定着のため施策を小手先として考えてしまっていると思います。従業員が望むことを解決せずに、他社事例で聞いた良さそうな話や、飛び込んできた人材定着支援サービスの営業からの提案に、簡単に乗りすぎです。
今回は、経営者様向けに、せっかく採用した優秀な人材を、長く自社で働いてもらうための定着施策についてのお話をしていますので、では、どうすれば、こうした一見魅力的な(でも効果がでない)話に、すぐに飛びつかずに済むのかを、お伝えしていきたいと思います。
人材定着は施策の順番が大切
当社がこれまで培ってきた、人材定着に関するメソッド(方法)は下記の図で表しています。記載の数字が施策の順番だとご理解ください。
おいおい、①給与からって、さっき、給与は上げられないのは理解しているとかって書いてあったぞ!とのお声も聞こえて来そうですが、そこはご安心ください。別途、詳しく解説いたします。社員総人件費は上げなくても大丈夫です。分配方法のお話を別途、ご説明しますのでお待ちください。
細かいマスごとの解説の前に全体図を説明します。
①②③が土台部分です。 この土台部分がしっかりしていないと、上にどんな施策を積み上げても、効果は短期的にしか効かず、効果そのものが半減します。
④⑤⑥は、中核部分です。この中核部分がないと、後述の⑦⑧⑨が、定着に効果を発揮しません。④⑤⑥がなくても、⑦⑧⑨だけの場合、実は、採用力が上がります。しかし、そのような状態では、人材採用後、④⑤⑥がないことに多くの人材が早期に気がつくので、入社後にギャップが生まれ、退職が後を絶たないという現象を生み出します。
私の立場にように外部から見ると、組織的に、そして経営者からも無意識に行われているケースが多いと思われますが、採用担当者が優秀すぎると、この状態を作り出してしまうケースが良く見られます。例えば、自社のNo.1営業を、そのまま採用担当者として起用して、その人材に採用を一任しているといったケースでは、⑦⑧⑨>④⑤⑥ケースとして挙げられます。
今回の人材定着という観点からは、⑦⑧⑨は情報部分です。大切な経営理念を単なる情報として扱っているわけではありませんが、人材定着に関していえば、この部分は最後の仕上げ部分です。こうした情報が整理され、特に⑦⑧の情報が⑨を経由して、社外から社内に還流してくる状態ができれば、最強です。このような意図を含めて、情報部分とさせていただきました。
個人的には、私が最も得意なのは、この情報部分でもありますが、最初に手を付けてしまうと全く意味がないので、①から順番に整理して、最後に、⑦→⑧→⑨で締めくくるというのが最も効果的です。
ベンチャー企業の場合
では、各企業によって、この9つのマスで、出来ていること、出来ていないことの傾向を見ていきましょう。あくまでも傾向であり、一例ですので、個社の例でも、全体を共通化するものでもありません。
創業5年程度、社員数10-30名程度のベンチャー企業の場合、以下のような傾向があります。青部分が出来ている部分です。
⑦⑤③に強みがあり、創業時からのメンバーの結束によって成り立っている組織ですが、①④⑥⑧あたりが弱いので、創業時からの空気感や雰囲気についていけない人が、不満を溜めてしまった場合、引き止められないケースとなります。
中堅企業の場合
次に中堅企業の例をみてみましょう。
創業10-20年程度、社員数100名~200名程度の中堅企業の場合、以下のようなケースが多いと思います。
土台部分、中核部分、情報部分ともに、まあまあ出来ているのですが、①④⑧が出来ていないので、各部分の他の2個が出来ているのに、その効果を半減させてしまっています。
ベンチャー企業のケース、中堅企業のケースともに、企業の成長過程によって、必ずしも、①から順番に積み上がっていくものではありませんが、人材の定着を考える際には、特に①②③を、土台として、最初にしっかり出来ていないと、その他の施策が、効果を発揮しないということは、間違いありません。
また、④についても別途後述しますが、組織内の中間管理職がしっかりしていないと、⑤の社内交流もお仕着せになってしまいがちですし、同時に⑦⑧⑨の情報が社内に循環しないという悪影響を及ぼしてしまいます。中核部分では、特に④が大切です。
まとめ
いかがでしょうか?
人材定着には、土台から積み上げていくのが大事ということをお伝えしたかったのですが、ご理解いただけましたでしょうか?
まずは、自社の場合、どこが出来ていて、どこが出来ていないのか?ということを把握されることが大事です。
これは、社内の従業員に聞くのが一番良いのですが、経営者や人事担当者が直接聞いても、正しい答えが返ってくるとは限らないので、調査方法にも注意が必要です。場合によっては、外部から調査した方が良く分かるといったケースもあります。
今回は、相当に文章も長くなってきてしまったので、次回以降に譲ろうと思いますが、①から⑨までの具体的な内容と、効果的な対策についても、改めて紹介していきたいと思います。
人材定着について書いてきましたが、いつもの外国人材紹介とは、全く違う話をしてしまっていますので、突然どうした?というご意見もあるかもしれません。でも実は、これには強い関係があるのです。
そもそも、異文化な外国人材を定着させるために、私自身も異文化の眼で、沢山の会社を見てきました。そうしたところ、意外と、今まで自分自身も経営者として当然の常識というか、そんなことは簡単に出来ないだろうと思っていたことが、実は企業の歴史やステージに応じて異なりますが、順番に出来ているケースもあったのです。あるいは、複数の会社の良いところを、私なりに組み合わせていったら、今回紹介した⑨つの分類にたどり着いたのです。結果、これらを会社様にお伝えしたところ、人材定着に大きな影響を及ぼしていることに気が付きました。
そこで、次回以降は、今回紹介した⑨つの分類について、それぞれ詳しくみていきたいと思いますので、ご興味ある方は楽しみにしていてください。