
舞台新宿羅生門 薩長エージェンシー編感想
初日マチネ観てきました。
この後も観劇予定があるため、追記あるかも。
幕末オタク、ゲームプレイ済、前作観劇済、薩長エージェンシーのオタク(中の人含む)です。
以下はネタバレあり(ゲームのネタバレもあります)
全体
シナリオとしては、薩摩御用盗のアジト炎上までは、斎藤一周りと、各組織がそれに応じて動いていたところを除くと、ほぼゲーム通り……いや、大局から見たらゲーム通り、という感じでした。
特にフィーチャーされていたのは別府。
彼のいいところ、慕われる理由とかが、かなり強調されていたと思います。
原作やっている以上、アジトの炎上はわかっているのですが、別府がよすぎて泣きました。
生きててよかった……まさか生存ルートがあるなんて……ありがとうございました……。
観劇前は、原作の薩長エージェンシー編ラスト、つまりある意味での完結的なところまでやって、次を作るならパラレルワールド、みたいな感じにするのかなと思っていました。オトメイトの舞台はそんな感じだったりするので(オルタギアはやっぱり違うのか……?)
でも、そうではなくて、前作から今作、そして次回作につなげるようなラストになっていましたね。
1本通して舞台版を進めていきたい意思がありそうで、次も楽しみです(発表されてません)
よく考えたら薩長のラストって、神誠プロがとんでもないことになっているので、エピローグできないし、最初から薩長編のラストまではないと、ちょっと考えたらわかったかもですね笑
いや、でも生存エンドとかあるかもですし。
パンフで脚本の方も触れていましたが、その流れにするためのオリジナルキャラこそ、斎藤一!
いや、チョイスが本当に上手いなと思いました……!
斎藤一は芹沢(水戸派)からも近藤・土方ら試衛館派からも一目置かれ、新選組が誇る天才剣士である沖田総司とも互角の腕前……という感じで扱われることが多く、芹沢を含んでいる神誠プロとの相性は抜群。
さらに戊辰戦争では会津で新選組と袂を分かった後は(喧嘩別れではないため、元々会津に関係していた人なのでは?なんて説もあり)会津の人として、会津藩士と同じ苦しみを味わい(会津藩は斗南藩という名前で青森の方に移転させられて、本当に苦労した)その後は明治政府で警察として働き、西南戦争にも参加したと言われています。
あまりにも色々と、ネタが完璧です。
と、ただの幕末オタクが顔を出してしまったので、脚本の妙に戻るのですが、この斎藤の周りに、
生み出したはいいものの、逃げられた上に危険すぎて始末したい戒援隊
元々仲間なので、見殺しにはできない神誠プロ
がいて、さらに
一網打尽を狙う桂
が絡む、という流れに、薩摩御用盗のアジト炎上の話が綺麗に被さっているのが、大局から見たら、的なところのひとつです。
薩長エージェンシー周辺のことは後で書きますが、ここからの流れ、勢いも素晴らしかったですし、洸と二郎の対峙もよかったです……あのシーンは本当に、洸がやっぱり主役だー!となりました。
ゲームの薩長編には、洸と深夜の別れと再会、切なくも尊く美しい友情の物語があったのですが、今回の薩長エージェンシー編ではそれはないんですよね。
その切なさの部分を今回担っていたのが、斎藤一と山口二郎の兄弟愛や、洸と二郎のほのかな友情でした。
この切なさもまた、この物語の味なのだと思います。
あと、こまこまと1人で盛り上がったところ。
蒼空と斎藤一の邂逅で、蒼空がテンション高くハグしにいったところ。超個人的にですが、幕末では2人が同い年だった説とかが大好きでして、テンションがとても上がりました。沖田総司&斎藤一コンビは、やはり無頼の2人が1番好きです(脱線)
沖田総司(の覚醒者)VS岡田以蔵(の覚醒者)も、幕末オタクを刺しにきてます。
どちらが幕末最強の剣士か、みたいな論争が度々起こる2人。わざとやってますね、これは。神展開でした。
西郷拓馬
豪放磊落。優しくて、強くてかっこいい。
薩摩藩士たちがみんな西郷を慕い、彼が「桂とはうまくやっていくんだ」と言えば、誰一人それを破らないのも納得できてしまうぐらいの、文句なしのヒーローでした。
ゲームでも舞台でも、それはあまり変わらなくて、ちょっと違うのは、舞台版はボケ成分が入っていることぐらいでしょうか笑
懐柔→怪獣のボケ、好きです。
ゲームではIT関係のお仕事もちゃんとこなせてしまう、ハイスペックなので……。
合理的に考えて事を進めていく桂のことを理解したいと思い、ときに諌め、ときに譲歩する、薩長エージェンシーで1番の大人なのは西郷だなぁと、今回の舞台を見て改めて思いました。
そして、そうやって彼が丁寧に繋いでいたはずの糸が、アジトの炎上でふっつりと切れた瞬間。
あそこの日向野さんの演技がものすごくて。
無力感とか、絶望とか。
もちろんその後のVS桂もすごいのですが、それとは違うすごさでした。
でもここで、自暴自棄になってもう全部どうでもいい!とならないのが、西郷の西郷たる所以。
桂に自分の考えをちゃんと伝えて、桂からの思いも聞いて、それをちゃんと受け止めてくれる(しかもなぜかその後に、齋藤一の恨みも受け止めてるんですよね……脚本が西郷に対して鬼すぎる……)
苛立ちも、恨みも、何もかも西郷は全部受け止めて、語り合って、理解してくれます。
とことん優しい。
今回は別府たちはみんな生きていたということもありますが、もう一緒にはやれないと一度は口にしていたのに、桂の気持ちを聞いて、理解を示して、笑ってもう一度やり直そうとしてくれる心の広さが、かっこいい。
本当にどこまでもかっこいい人だなと改めて思いました。
あと個人的には結構、西郷と洸のやりとり、相手のことを知っていくに従って増していく信頼、というところがゲーム中かなり好きポイントでして。
特に、ゲームのラスト付近で再会したときの会話とか。西郷エンドもそうかな。
ただ、そこまで書いていると恐らくとんでもない長さになってしまうのと、洸が新徴組に帰らなくなっちゃいそうなので、あまり深掘りはされなかったのかなというのが、ちょっとだけ残念だったかなと思います。
その代わりに深夜とのシーンが激増していたので、こちらは深夜のところで語ろうかと思います。
桂紫苑
感情爆発の西郷との殺陣、本当にすごかったです。
あそこで語られまくっている明治政府関連のもろもろは全っっ然、劇中では語られてないんですけど、この2人の間にあった全ての過去が乗っていたように思いました。
あの中に詰め込んだのがすごい。
非常に個人的にですが、
当初から幕府は嫌いな倒幕寄りで、そのせいで痛い目に何度も何度もあいながらも、最後には勝利した長州
と
(13代将軍の正妻が薩摩の人なのもあって)当初は幕府側で動きながらも、途中で幕府を見限ってずっと勝ち続けている薩摩
というイメージが実はずっとありまして。
そこで考えると、戊辰戦争の前からもう、長州は多大なる犠牲を払ってきていたんですよね(桂の親友で高杉の師でもある吉田松陰は、戊辰戦争より前に幕府の手で処刑されてるとか)
そこからさらに戊辰戦争があって、その上に成り立ったのが明治政府だったわけですから、そこまで流してきた痛みの数が、たぶん、桂と西郷では違いすぎているのだと思います。
だから、武士としての誇り"なんてもの"を捨てられずに薩摩の人が蜂起し、西郷が指揮した西南戦争を桂は許せない。
西郷は西郷で、武士としての誇りを捨てられない仲間たちの気持ちを理解できるからこそ、感情を削ぎ落としすぎている桂の考えに苛立つ。
その考え方の違いが、現代でも明らかになってしまった故のぶつかり合い。
実際、桂は西南戦争に参加できていませんし、あれは西南戦争のときに直接、本音を言い合えなかった2人の、あのときできなかった本音の応酬でもあるんだろうなぁと。
冷酷で、苛烈に振る舞う桂が「どうしてそうなのか」がこれでもかと語られていて、その想いが殺陣にも乗っていて、胸がぎゅっとなりました。
でも結局、西郷に戻ってきてほしかったのも本音。
そして、情があるからこそ西郷は戻ってきてくれたわけで。
たくさん、その「情」に助けられているのがわかっていても「情なんて必要ない」と当たり前に言っちゃうであろう、桂のツンデレ加減を、西郷や深夜、あるいは別府も含めてみんなが愛おしいと思っているのかな、なんて。
あと、少し芝居関連。
西郷との戦いは斎藤に遮られて中断のところは明確にイライラしている台詞がありますが、それ以降も西郷との戦いに水を刺される度に苛ついているのを、台詞がなくてもずっと凌生くんが表現しているのも、とてもいい。
西郷との関係性とともに、別府との関係性も個人的にぐっとくるものがありました。
本当に桂に捨て石にされてもよかった、納得ずくだった別府と、それがわかっているから判断を下した桂、という関係性。大人すぎる。
たぶん、生き延びたこれからもそれは変わらなくて、桂は何かあれば別府を見捨てるだろうし、それを別府も受け入れるんだろうなと思いますけど、本当にやるかは、よくよく考えるかも、ぐらいの感じ。
控えめに言って、とても好きです。
薩長エージェンシーエンドで語られる2人の会話が好きです……早くもう1回見たい。
桂さん周りでゲームにあったから見たかったな……!と思うところは、深夜が更生者施設送りになる→落ち込む桂→実はフリで、深夜との策だった→文庫本(実は高性能端末が隠されている)を持たせて洸を送り込む、のところでしょうか。
流れが明らかに違ったのでしょうがないのですが、ここの長州勢2人のしてやったり感は、見てみたかったなぁと。
代わりにSNSの話があったので、2パターン楽しめてよかったとします笑(やり方に賛成できないとか言いながらも、深夜はアカウント100個作って対応したんですよね……AIに文章を生成させたりしたんだろうか……)
桂と深夜といえば、命令が「絶対に死なないこと」だったり、ラストバトルで深夜が入ってきたときに桂がかなり必死に間に割り込んだり、2回目の薩長エンドの日は深夜が倒れたときに桂が駆け寄っていたりしているのですが、桂の中では深夜は希望というか、次代へとつなげたい存在なんだろうなと思います。これは、原作でもあまり変わらないですが。
彼にとっては自分も西郷も、その他全ての覚醒者が使い捨ての駒ですが、深夜だけは違うんだろうなとも。
高杉深夜
ゲームではもちろん動きなんてないんですけど、一挙手一投足が「ああ、高杉深夜だ」と思えるぐらいピタリとはまっていて、もう何年も見ているはずの快征くんの演技に、度肝を抜かれました。
高杉晋作としての振る舞いを取り戻すところとの演じ分けも見事。桂や西郷に強く出た次の瞬間に、表情も声も「深夜」に戻るのが素晴らしい。阿部深夜、かわいすぎます。
そして原作よりも大きく取り上げられていたのが、深夜の覚醒と葛藤ですね。
覚醒が進むことで、より役に立てているという喜びと、覚醒が進むことによる苦しみ、見せつけられたその先に待つ姿(修羅・阿修羅)との間で揺れ動きながら、それでも忘れたくないんだと叫ぶ姿に、胸が締めつけられました。
完全に高杉晋作の覚醒者として桂の前に立ったときの桂の反応も、ある意味では残酷です。それまでは深夜に対して保護者感満載なのですが(実際、この2人の関係はその通りですし)このシーンでは、懐かしさや喜びを持って
「高杉ですね!?」
ときたもんで。桂がそういう風だからこそ、忘れたくないと、ますます深夜は思ってしまう、という……。
そんな桂との関係性は、原作より一歩踏み込んだものになっていた気がします。
舞台でも桂から深夜への態度は原作とほぼ変わりませんが、原作の深夜はその保護者ムーヴを全面的に受け入れていたと思います。
ただ舞台版では「それが逆にもどかしい」という気持ちが"ほんの少し"ある風に描かれていました。
不満があるわけじゃないけど、ただ守られるだけではなく、桂たちから頼りにされたい、役に立ちたいという気持ちが深夜の中にはあるんですよね。
作中では語られてないですが、深夜は親から捨てられて桂に拾われてますし、必要とされることに強い喜びを覚えているのは高杉晋作ではなく、高杉深夜なのだと思います。
厚生者施設で、桂が褒めてたと洸から聞いたときとか、特にその喜びが大きく出ていた気がしました。めっちゃ嬉しそう(かわいい)
だから戦いに行きたいと自分から言うし、最後の戦いも「休んでなさい」と桂から言われたのに飛び込んでいく。
この加減、やりすぎると完全に桂への反抗になってしまうのですが、そういう感じは微塵もなかったのが本当に素晴らしかった……。
桂のことを「桂小五郎の覚醒者だから大事」というよりも、「桂紫苑が大事」という感じで接しているのがいいなと思います。高杉晋作としてでなく、深夜のときに、守ってあげなきゃとか、薩長エンドの西郷への隣にいてあげて発言があるのが尊い。
深夜から感じられたのはずっと、薩長エージェンシーへの愛でした。
最後に洸に「いいでしょ?」と言っていたのが、もう泣ける……。
※ただここ、西郷と桂のお遊び日替わりシーンでもあるので、目が足りないんですよね……
2日目は横で西郷と桂が、お腹でぶつかる→弾き飛ばされる桂→ベンチで痛がる桂
4日目マチネは腕相撲で秒殺されて転がってる桂、ソワレはあっち向いてホイで秒殺されて呆然と客席を見つめる桂
今回、3番手に深夜がキャスティングされていたので、劇中で薬を飲むと決めたシーンとかがあったらいいな、と実は思っていたのですが、それが語られるシーンがあって大歓喜でした。
ちょっと驚いたのは、その思いを聞くのが西郷だったところ。
原作では西郷が薩長エージェンシーから離れている間があり、そこで深夜は薬を飲んでいくので、西郷のことは忘れてしまいます。それを思うと涙。
舞台では大丈夫そうですね。
原作では西郷と深夜の関係が語られることは、あまりなかったと思うのですが、舞台版では一緒にふざけてみたり、薩長エピローグでは一緒に剣術稽古してみたり、かなり仲よし度が高い雰囲気だったのも印象的。
それもまた、薩長のかすがいだなぁ、と思わせてくれるところだったのかもしれません。
ラストの握手とか、もし原作ゲームにあったら、間違いなく洸のセリフでしょうけど、今回はラストで洸がまた新徴組に戻るというのもあって、そういうポジションに少し、深夜が入っているのかなと思います。
改めて、とっってもかわいくて、戦っているときはかっこいい深夜、本当に素敵でした。