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【読書録】ピンクとグレー(加藤シゲアキ)
加藤シゲアキさんの『ピンクとグレー』について書きます。今回も(わりと物語の根幹となる)ネタバレを含みますので、ネタバレは聞きたくないよという方はご遠慮下さいませ。
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『ピンクとグレー』は、人気アイドルグループ“NEWS”の、加藤シゲアキさんのデビュー作。映画化されたこともあり、ニュースやバラエティー番組でよく取り上げられていたので、文庫本を購入するに至りました。
正直、「アイドルが書く小説って面白いの?」と思っていたのですが、非常に好感が持てる小説でした。加藤さん、青山大学法学部卒なのですね。小説を書くための自頭力?のようなものをすでにお持ちのように感じました。
すごいと思ったのは物語の構成力。巻末インタビューで触れられていましたが、「どうしたら面白いと思ってもらえるか、続きを読みたいと思ってもらえるか」を意識しながら書かれたそうです。本職がエンターテイナーだけあって、見せ方がとてもお上手でした。
物語は、主人公りばちゃんが、親友ごっちとの思い出を回想しながら進んでいく構成になっているため、現在と過去を行ったり来たりしています。ラストシーンでは、ごっちの生涯をりばちゃんが“演じる”という展開になっているので、さらに演技の世界と現実の世界を行ったり来たりします。めまぐるしい!
(ごっちとりばちゃんは、高校生の時に芸能界にスカウトされ、ごっちは大スターの道を駆け上がっていきます。一方のりばちゃんは鳴かず飛ばず。しかし大スターには大スターなりの悩みがあるようで、最終的にごっちは“死”を選択する……というのがおおまかなあらすじになります。)
私はさらさらと本を読むタイプなので、「あれ、今現在なのか?」とか「ん? これは演技の世界?」と、たまにわからなくなってしまうこともありましたが、そういう作りは凝っているし、よく練られていると感じました。
伏線の張り方・回収の仕方もお見事でした。物語の序盤で、小学生時代からの二人の思い出が多く語られています。この思い出話になんの意味があるんだろうと冗長に感じていたのですが、その思い出の数々は、ごっちの死後に活きていきます。
ごっちの死後、芸能界入りのきっかけを作った恩人の発案で、りばちゃんは、ごっちの暴露本を書きます。大スターを称え、その本を映画化するのですが、その映画で、りばちゃんがごっちを演じるのです。
できるだけ忠実に“ごっち”を演じるために、りばちゃんは、ごっちの母親、芸能界に入ってから付き合い始めた彼女など、様々な人に話を聞いて、ごっちという人間に“成って”行きます。
この、ごっちに成るための作業で、過去の思い出が活きてくるのです。
りばちゃんにとって、当時ごっちと話したこと、経験したことの中に、消化不良を起していることがありました。例えば、作中でごっちが作詞した『ファレノプシス』。彼が芸能界にこだわる理由。彼の信念――「やるしかない。やらないなんてないから」。
腑に落ちていなかったことが、ごっちの周囲の人の声を聞き、助けを借りることによって、やっと点と点が繋がり、ひとつの線になっていく。最後まで読んでやっと、あの思い出の数々が伏線だとわかり、同時に回収できる仕組みになっているのです。
各章のタイトルも秀逸でした。その章で語られる“年代”と、登場する“飲み物”がタイトルに付けられているのです。「17歳 Dr Pepper」、のように。小物の使い方までお洒落だなぁと感心せざるを得ません。真似したい!
個人的に好印象だったのは、著者の加藤さんがよく知っている風景が舞台になっていたことです。
著者が少年時代を過ごした横浜は、作中でもりばちゃんとごっちが出会う場所になっています。さらに、二人が進学した私立の中高・大学は、渋谷が舞台になっていることや、淵野辺にキャンパスがあることから、ご自身が通われた青山学院中等部・高等部/青山学院大学なんだろうと推測できます。
ご自身がその当時・その場所で感じられたことをそのまま作中に引用しているのか、情景描写にリアリティがあって、どことなくノスタルジーを感じてしまいました。
書ける範囲で書いてみようとする謙虚な姿勢には、加藤さんの人となりが現れているのかもしれません。
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長々と書いてしまいましたが、全体的にデビュー作とは思えない仕上がりになっていると思います。アイドルが書いた小説には抵抗があるよという皆さんにも、ぜひ読んでほしい1冊です。
あ、あと前評判よりはBLじゃなかったです。っていうか全然BLじゃなかったです(そこかよ)。
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