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中国政府の「娘炮(ニャンパオ)」禁止令

そもそも「娘炮(ニャンパオ)」とは?

中国の習近平政権は、最近の中国の若者に流行っている「娘炮(ニャンパオ)」=「女性っぽい男性」への取り締まりを強めています。

中国でも、若者を中心に中性的な男性がイケメンと目されるカルチャーが根づきつつあり、90年代生まれの人気歌手などはメイクを施し中性的なファッションを着こなすことで、アイドル的な存在にもなっています。

彼らの人気にあやかろうと、デパートで化粧品を買い求めたり、カラフルな色彩や奇抜なデザインのファッションを楽しむ若者も増え、日本や韓国でもそうであるように若い男性の中性化が進んでいます。

ところが、中国政府はそうした男性の中性化への取り締まりに舵を切り、メイクや女性的な服装をすることを規制するほか、中性的なファッションやコスメ技法について発信しているインフルエンサーなどにも介入しているといわれます。

政府の方針で国民の服装や表現を規制しようというのは、現実路線に転換しているとはいえ共産主義国家ならではの政策かもしれませんが、それゆえに強い権限のもとに厳しい圧力を受けているといえます。

日本と中国を行き来している駐在員の人に聞いたところ、今の中国政府の方針は共産党創立100周年記念式典での習近平の演説でも触れられている国家の屋台骨的な政策であり、これからも規制が強まることはあっても当面弱まることはないだろうと話していました。

若い男性の“中性化”は時代の趨勢

若い男性が中性化するというのは、日本や中国に限らず、世界的な傾向です。物心ともに豊かになると、女性は男性化してより経済力や社会的地位を求め、逆に男性は女性化してファッションや自由な表現を求めるというのは、ある意味では自然の摂理といえるのかもしれません。

そんな中で中国は原理原則として共産主義という画一的な価値観によって国が成り立っており、急激な経済成長を背景に経済力と軍事力により国際社会への覇権を誇示しようとしているため、男性の中性化という流れが国策として許されないというポリシーに行き着くのでしょう。

アプリや通信を駆使して場所を選ばず世界を股にかけてビジネスができる時代とはいっても、軍事力のベースは現在においても兵役による規律正しいマンパワーが拠り所となっており、とりわけメンタル面においてはいわば男性性を凝縮したマッチョなポリシーが支配的とならざるを得ないのだと思います。

それでは、その先にはどんな未来、あるいは国の発展が描かれるのでしょうか。日本でも、昭和のある時代までの世代の人では、今の中国ほど極端ではないにせよ、マッチョな男性性をもっぱらの拠り所として社会生活のベースに置いている男性は少なくないはずです。

男性が化粧するなんてありえない。女性のようなファッションに身を包むなど言語道断。こんな感覚はかつてむしろ世の中の常識ともいえましたが、そんな時代の状況を思い返してみると、圧倒的な男性の原理による男性中心社会の時代が長らく続いていました。華々しい女性の文化は、あくまで私的領域にとどまっており、いいかえるなら男性たちをサポートする存在としての“彩り”的な意味合いが強く、世の中の構図は政治・社会・経済の全般にわたって男性優位だったのです。

男性への介入は実質的には女性差別

このように考えると、「娘炮」禁止の国策は表面的には若い男性に対する国家の厳しい介入といえますが、その本質は男性優位の社会を構造として守ろうという試みであり、いいかえれば女性差別を事実上容認し間接的には助長する政策だといえます。

男性がメイクをしてはいけない、自由なファッションを楽しんではいけないのは、彼らがあくまで「男」だからであり、この場合の「男」は中国のような理念においては「女」に対極する存在として、政治・社会・経済におけるマジョリティを占めるとされるのです。

芸能人に対する行き過ぎた規制だとか、インフルエンサーへの不当な圧力だという論調も多いですが、もちろんそのような意見は妥当だと思いますが、あくまで男性性と女性性の対比という構図を問わなければこのテーマの本質は見えてこないように思います。

このような政策の表の出来事はそれなりに報道され論評されますが、そのポリシーのもとに社会の裏側で女性がどのように扱われ、具体的にどんな問題を背負っているのかという視点はあまり伝わってこないです。

「中性化」する男性への強い規制は、実質的には女性という存在の「固定化」であり、強い圧力を意味するものでもある。こんな目線を大切にしながら、これからの時代の行き先をしっかりと見極めていきたいものです。

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橘亜季@『男はスカートをはいてはいけないのか?』の著者
学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。