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痛みを感じる安心感

写真は8年前に食べたカップケーキ。どこのお店のケーキかすら覚えていないけれど、美味しくて思わずシャッターを押してしまったのだと思う。甘いものはできたばかりの心に傷に染みわたります。

■ハン・ガン著、斎藤真理子訳『回復する人間』
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b451457.html

生きることに執着しない人、もしくは世捨て人といったような、何かを諦めたり悟ったりして俗世間との間に越えられない大きな溝が描かれる作品も捨てがたいが、”それでも迷ってこの世界で生きていく”ような物語には心惹かれるものがある。

迷って悩んで進むことを決めた人が放つ光は、厳しくも暖かい。もちろん悲しみや苦しみなんてできることなら出会わないで過ごしたい。だが、防ぎようのない事実に直面して、ふいに傷ついてしまうことはある。

絶望というのは泣き叫ぶことだけではない。静かに心を蝕んで人格を壊し、再起不能を覚悟する。しかしここに登場する彼らは回復する。簡単なことではないその作業は心理的に苦痛も伴うものだ。そしてやっとのことで一歩を踏み出すその音も、心が壊れていくときと同様に静かだ。

訳者あとがきによれば、著者が火傷を負った際、ずっと感覚がなかった傷が痛んだことで医師に治ったことを告げられ、回復とはこういうことなのだと実感したのだそう。物語の中の彼らが再び歩きだすのを目にすることで、自分の傷も少しだけ癒えたような心地になる。痛みを感じるのは回復している証拠である。生きて進もうとしているのだ。

ハン・ガン作品はたったの2作目ではあるが、どちらも読みながら生死についてまで思いを巡らせてしまった。彼女の作品は、普段は誰にも話さないような考え事を奥底から引っ張り出してくれるみたいです。

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