
災害時の支援【サイコロジカルファーストエイド】の原則
災害時、被災された方を支援したいと考えるひとも多くいらっしゃると思います。身体的な支援だけでなく、心理的な支援も必要であることに異議を唱える方はいらっしゃらないでしょう。特に妊婦や新生児を抱える家族にとって、心のケアは非常に重要です。では、どのような支援が現実として必要なのでしょうか?
その疑問に応えるためのガイドとして、サイコロジカルファーストエイド(PFA:心理的応急処置)があります。
今回はPFAの原則について解説していきたいと思います。
1.サイコロジカルファーストエイドとは
サイコロジカルファーストエイド(以下、PFA)は特別な治療や心理療法、カウンセリングを指すわけではなく、災害初期の苦痛を和らげ、短期・長期的な適応を促すための予防的な活動であり、対象は被災したすべてのひとです。
現地に住む医療医療従事者などは、支援者である一方で支援が必要な対象者であることを忘れてはなりません。また、その期間は被災直後より一ヶ月程度が目安とされています。
今までいくつかのPFAが開発されてきましたが、WHO(世界保健機関)が中心となって開発したガイドが広く用いられています。PFAは、深刻な危機的出来事に遭遇した人々に対し、心理的回復を支えるための人道的で支持的、かつ実際に役に立つ様々な支援をまとめたものです。
2.サイコロジカルファーストエイドの原則
WHO版PFAの活動原則は, 活動前の「準備prepare」と,活動中の「見るlook・聞くlisten・つなぐlink」の頭文字からとったP+3Lから成り立っています。
準備 prepare
現場の状況を可能な限り正確に把握する
現地の文化に合った礼節を学ぶ
支援者自身のセルフケアを行う
被災地以外から支援に行く際、心意気だけで、逆に迷惑をかけてしまう例があります。支援者が自身の衣食住について準備をしないままに現地入りしてしまい、被災された方々の負担となってしまうというのがその一例です。
現地に入る前に現場の状況についての正確な情報を可能な限り収集して支援のための準備を行うとともに、【自分自身の準備】も忘れてはならない準備なのです。
見る look
周囲の状況や人々の様子を観察し、対話することで必要な支援を判断します。特に、身体的な危険や心理的なストレスサインに注意を払います。
聴く Listen
相手の話を傾聴し、感情や考えを理解します。相手が何を感じ、何を必要としているのかを把握するための重要なステップです。その際、何があったか尋ねて詳細を語らせることは決して行ってはならないことのひとつです。
ストレスとなった出来事について感情表出を促すデブリーフィングの効果は科学的に完全に否定されているだけでなく、むしろ有害であるとの指摘がなされています。安易に体験を語らせることは再度、その体験による外傷を負わせる危険性をはらむものであり、PFAはデブリーフィングの反省のもとに生まれたものと言えます。
話を傾聴する際には、『いま』感じていることや『いま』必要なものについてフォーカスすることが大切です。
つなぐ Link
必要なリソースやサポートと人々をつなげることで、適切な支援を受けられるようにするための橋渡しを行います。
被災者された方々にはレジリエンス(自然回復力)があります。その方のレジリエンスが十分に発揮できるようなサポートが得られるよう、適切なリソースやサポートにつなぐことが重要です。
3.PFAの一番の目的とは
PFAの一番の目的は、支援が必要な方を心理的に保護し、できる限り現状以上の精神的負担をかけないこと。そして安全な環境を確保し、必要に応じて生活上の手助けをすることです。
すべてのことを解決してあげるというスタンスではなく、支援が必要な方のレジリエンスが発揮できる環境を整えることが短期・長期的にも必要な支援といえます。
4.PFAを学習するために
PFA実施の手引き書には、日本語版も作成されていてます。少しの知識と意欲があれば誰にでも学習できるツールが含まれています。
PFAは専門知識や資格があるひとだけが行うというものではなく、誰でも行うことができる心理的応急処置です。また、PFAは世界に共通する支援マニュアルですが、その学校版としてPFA-S(Psychological First Aid for School)もあります。
学校で援助を提供する際には、以下について注意した情報収集が必要です。
どこで発生したのか(事件や事故など)
いつ発生したのか、あるいはどれくらい続いたのか
出来事の規模(屋内か屋外か)
特筆すべき特徴はあるか(殺人事件、テロなど)
いずれにしても、「求められ、必要に応じて」支援することが災害時支援の基本となります。
5.まとめ
今回はPFAについて、概念やその原則、目的、注意点について解説しました。
PFAを知っていることで、支援する方だけでなく、支援が必要な方自身も災害時において自身の力を発揮できる一助となると思います。
また支援したい・行動したいと考えている方が、「自分は何ができるのか」と改めて考え、必要な支援について知ることで本当に必要な支援を理解する一助となれば幸いです。