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フィリピンの熱い映画対決 日本で上映会も

7月末に日本に帰国するはずだったが、わざわざお金を払ってビザとフライトを変更した。

8月3日に上映が始まった映画をみるためだ!

フィリピンではいま、戒厳令が布告された1970-80年代のできごとを、それぞれ描いた二つの「映画対決」が話題になっている。公開日にさっそく見てきた。ごく簡単な感想まで。

「人が良すぎる、信じすぎるから裏切られるのよ!」

一本目は「Maid In Malacanang」(ダリル・ヤップ監督)。フィリピンの大統領府であるマラカニアン宮殿のメイド、という意味だ。

1965年から20年以上にわたって大統領につき、独裁者とも呼ばれたフェルディナンド・マルコス元大統領一家が、1986年の民衆蜂起「ピープルパワー革命(エドサ革命)」でハワイに追放されるまでの72時間を、「マルコス家側の視点」で描いたという。

大々的な広告も

エグゼクティブプロデューサーは上院議員のアイミー・マルコス氏。つまり、マルコス家が制作にかかわっている。

革命の舞台エドサ通りに人々が押し寄せる中、マラカニアン宮殿では何が起きていたのか。物語は一家の長女アイミーを中心にまわっていく。

マルコス家の長男で、今年5月の選挙で当選したボンボン・マルコス現大統領も登場する。若い俳優が演じるボンボンはずっとカーキ色の軍服を着ているのだが、なぜなのか。父マルコスとの激しいやりとりの中で、親子の思いが打ち明けられる……。

上映中、ふと両脇をみると、女性のお客さんがどちらも泣いている。

イメルダ夫人自ら本人役の女優を指名したそう

後で話を聞いた左隣のイメルダさん(48)は、名前からわかる通り、両親の時代からマルコスを支持してきた。「側近らに裏切られても、マルコス家は国民を裏切ってはいなかったんだと思って泣いてしまった」と話してくれた。

「人が良すぎる……」の小見出しは、アイミーが父マルコスに叫ぶセリフだ。

コリーはマージャンをしていた?

この映画は13日から順次、日本でも東京や名古屋、岐阜などで公開される予定という。いずれも在日フィリピン人の多い地域での上映会のようだ、マルコス支持者がたくさん見に来ると見込んでのことだろう。アメリカのカリフォルニアなどでも上映される。フィリピン社会のネットワーク、マルコス支持者の輪に驚かされる。

署名活動のページ

一方で、フィリピンでは上映中止を求める署名運動も始まっている。マルコスはインフラ整備や農業振興を押し進めた一方、戒厳令下で反発する人々を抑圧し、不正蓄財も問題になった。そんなマルコス時代の歴史的事実を、映画は「修正」しようとしているのではないか、との見方があるためだ。

予告編が発表された時点で、事実とは異なる内容があるとの批判も出ていた。その一つは、マルコスの後に大統領となるコリー・アキノ氏が、エドサ革命のさなかに尼僧らとマージャンをし、米国大使からの電話に「彼(マルコス)をフィリピンから追い出しなさい!」と発言するシーンだ。

いろいろと突っ込みどころはある作品だが、映画としては面白かった。当時のフィリピンで実際に撮影された映像や写真、証言が使われていて、何が本当のことで、何がフィクションなのか、ますますわからなくなるけれども……。

フィリピンアカデミー賞7部門の受賞作

もう一つの作品は「Katips」(ビンセント・タニャーダ監督)だ。

「Maid in Malacanang」が映画界の話題を席巻するなか、7月下旬になって同じ8月3日に公開されることがわかったとき、おお、カウンター(対抗)映画が出てきた!と、興奮してしまった。

Katipsのポスター

というのも、こちらはマルコス時代の戒厳令のなかで、政権に圧力をかけられた大学生ら、若い活動家の日々を描いたミュージカル作品だからだ。まったく違う視点から、違う手法で同時代を描いている。

2016年に初上演された舞台作品を映画化した。

戒厳令をテーマにしたことについて、タニャーダはCNNフィリピンの取材に、元上院議員の祖父が戒厳令下で投獄されたことを覚えており、「私はまだ10代の子どもだったがとても怖かった。拷問を受けたり投獄されたりする経験をしていなくても、こういう感情をもったっていい」と話している。

上映後に拍手する人たち

戒厳令で報道機関が相次ぎ閉鎖されるなか、真実を伝えようと、国立フィリピン大学に実際にあった(ある)新聞「Collegian」をつくる若者らが主人公だ。

タイトルのKatipsは、19世紀にスペインからの独立を目指した革命組織Katipunan(カティプナン)からきているだろう。自由と平和を求める自分たちを「新たなカティプネーロたち」と呼び、仲間同士の愛も生まれるのだが、警察に目をつけられて……。

生々しい拷問のシーンもある。気分が悪くなったのか、私が見た回では2人ほど退席した人もいた。

何よりよかったのは、7月30日発表のフィリピンアカデミー賞で最優秀作品賞、監督賞、俳優賞を受賞した、監督で俳優でもあるタニャーダの、コミカルでありながら鬼気迫る演技だ。

この作品はフィリピンアカデミーの7つの賞を受賞。「Sa Gitna ng Dulo」という歌も受賞しているのだが、感動的で、歌が大好きなフィリピンの人たちのミュージカルをもっと見てみたいと思った。また、メッセージを伝える歌の力というものを感じた。

みんな片方の映画しか見ないのか

どちらの映画も上映後に拍手がわいた。
ちょっと残念なのは、話を聞く限り、私のように両方の作品を見る人は少なく、ほとんどの人は自分が支持する側の、片方の映画しか見ないのかなと感じたことだ。

対決は何を残すか

映画という芸術作品が意見表明の手段となることの素晴らしさ、そして、すっと人の心にしみこむがゆえの「危うさ」もあることも、改めて感じた。

※詳報を別の場所に書こうと思っています、またご報告しますね。

本当はこれも見たい…山下財宝もの?

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