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世界史上最も無責任な中央銀行総裁の華麗なる脱出


大型客船が、氷山に向かっている。
周りからしきりに警告されている。
それでも頑として航路を変えなかった船長が、氷山に衝突する前に一人で逃げ出し、勝ち誇ったように言う。
「ほら、だから大変なことになると言っただろう」


元日銀総裁・黒田東彦の耳を疑うような(非公開)発言が新聞に載っている。

「異次元の金融緩和」を「黒田バズーカ」と世にも愚昧な呼称を冠し、それを10年間も続けた男が、日銀の債務を膨張させても「問題ない」「出口戦略は時期尚早」としらを切り続けた張本人が、退任した矢先に「問題だ」「大変なことになる」とまるで他人事のように騒ぎ出した。

在任中には毎日の指値オペで数兆円を惜しげもなく使っていた男である。日本史を見回してもここまで大規模に日本円を蕩尽した人物は他に見当たらない気がする。平清盛も徳川家康も伊藤博文も田中角栄もおそらく黒田東彦の足元にも及ばない。

その男が、日銀の債務膨張で「金利が上昇し始めたら政府の利払い費は急増する。そうなったら大変なことになる」と悪びれもせず言い始めた。人はこれだけ厚顔無恥になれるものかと見上げてしまう。ここまで素早く手のひらを返すとは思っていなかったが、これぞ日本の“優秀”な官僚の鑑というべきなのかもしれない。

彼はおそらく世界史上最も無責任な中央銀行総裁だと確信しているけれど、われわれ庶民は、この類の無責任男によくよく気をつけたほうがいい。一見、勇ましく自信満々に映る人間ほど、逃げ足が速い。恐るべき変わり身の早さで、泥舟の乗客も見捨てて真っ先に逃げる。(大阪万博など早くも責任のなすり合いをして逃げ出す輩だらけではないか。すでに危なっかしい)

日銀はイールドカーブコントロールという狂気の長期金利操作を続け、政策修正(上限撤廃)の時期が取り沙汰されているが、元総裁自身の言う通り「大変なことになる」ので、まず踏み切れはしないだろう。

為替介入などで騙し騙し時間稼ぎをし、米国の長期金利が落ち着くまで耐え凌ぎ、円安に歯止めがかかることを神頼みするしかない。国内のインフレなどもちろん為す術なし。なにしろ金利を上げる術がないのだ。すべては風まかせ。あとは野となれ山となれ。「通貨の番人」の矜持も面影もない、風前の灯の中央銀行。それが現在の日銀である。見るも無惨な凋落ぶり。

主犯はもちろんアベノミクスにある。

「異次元の金融緩和」を原資に成長戦略を目指したとされているけれど、10年間の経済成長率は年平均でたったの0.4%程度。一人当たりGDPで韓国と台湾に抜かれ、唯一残ったグローバル企業・トヨタがEV戦略でコケたらもうこの国ごと終りだろう。つまり本当の没落はこれからだ。

ちなみに、アベノミクスを主導したリフレ派の浜田宏一も、唖然とするほどあっけらかんと手のひらを返している。

残念ながらわれわれ庶民に取れる手立てはもう多くない。どれだけ時間が残されているのかも定かでない。この国の経済も通貨の行方も、神のみぞ知る。(万が一、神風が吹いて氷山から航路が外れたらどんなに救われるだろうと虚しい夢想にも縋りたくなるけれど)
せめて救命胴衣を身につけ、今は静かにその時を待つことにしよう。


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