救命胴衣はあるか
いくらか気の滅入る話をしなくてはならない。文字どおり、気は進まないけれど。
長く慢性的な財政赤字が続く日本は、中央銀行(日銀)が巨額の国債を間接的に買い取ることでかろうじて存命している。「異次元の金融緩和」を10年以上も続けていることで、政策金利を上げる手札をなくしている。日銀がETFを買い上げる(質的金融緩和)というドーピングで嵩上げされた日経平均は、30年ぶりの高値更新で実体経済と乖離している。政府も日銀も、金銭感覚が異次元に鈍磨して久しい。
(いたずらに脅すつもりでも、扇動する意図もない。現状を正確に認識しておくために書き記している)
ぼくは日銀の破綻をずっと危ぶんでいるけど、破綻はしないと主張する一派もいる。日銀の「異次元の金融政策」を正常化するには「異次元の増税」も必要だと思うけど、それは必要ないと唱える論客もいる。このあたりは一種の神学論争のようで、おのおのが信じたい道を粛々と信じればよいと思う。(見ず知らずの論敵を論難して思想転向や行動変容をもたらしたいとも思わない)
ただ、どちらの論陣を張るにせよ、もし万が一、クラッシュしたときの備えはあるに越したことはないと思う。大型客船に救命胴衣が欠かせないように。地震を警戒して防災用品を揃えておくように。
備えといっても、日本にこのまま暮らしていく以上、残念ながら取れる手立てはさほど多くない。
円建て資産を、円以外の資産に替えておくのが関の山だ。
外貨預金が最も手軽でオーソドックスだが、好みによっては実物資産や株式でもよいかもしれない。あるいは預金封鎖も見越して外貨預金を引き出してタンス預金にしておくとより安心だろうか。(国家が外貨準備を積んでいるように、個人も相似する備えをしておくのだ)
そうはいっても、実際に“ジャパン・ショック”が起きれば誰も無傷でいられないところがこの気鬱な話のベースラインなのだけど。
新型コロナウイルスが騒がれ出したころ、ぼくはいよいよと観念して円資産の一部をドルとユーロに両替した。(当時は1ドル105円ほどだったが、今は140円ほどになっている。ユーロは120円から150円近くになっている)
幸いにして、今のところ破局には至っていない。ことによると、まだしばらくは持ちこたえるかもしれない。
しかし、沈みこむプレートのひずみがどんどん溜まっているような状態に変わりはないので、震災を免れると安堵できるほどではないし、大型客船が巨大氷山に向かう航路が変更されたわけでもない。せめて防災シミュレーションをし、いざというときの避難経路くらいは頭に入れておいたほうが穏当だと思う。
そして、最悪を想定して準備を済ませたら、あとは楽観的に生きよう。
もしこのまま何も起こらなければ、こんな僥倖はない。3年前に交換した外貨には3割増しの値がついている(目先の上げ下げは主眼ではないにせよ、わるいことばかりでもない)。
いつか起こるカタストロフを心配しすぎて、日々を悲観的に過ごすのは精神衛生的に得策ではないし、天下国家を論じるあまり神学論争に巻き込まれるのも荷が重い。あくまでも個人の生活目線でサーヴァイブする心構えをしておきたい。
リーマンショックの実話を描いた映画『マネー・ショート』の中で、ライアン・ゴズリング扮する銀行家が、大暴落を前に人びとに警告する科白がある。今こそ改めて胸に刻みたい。
「船が沈むぞ。救命胴衣を着よう」
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