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15時の手紙

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ささやかな昨日のできごと。
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#生活

お金がない楽しさの先へ。映画『PERFECT DAYS』によせて

「お金がない」ことは選べずとも「楽しさ」は選べる、と前回に書いたあと、その続きを考えさせるような映画に、年の瀬になって出会えた。 役所広司主演、ヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』。 (以下、映画の内容に触れますが、さほどネタバレはありません) 築60年超えの木造アパートで暮らす独居中年の、何も起きない日常をじっくり丁寧に描いている。 夜明けとともに起床し、敷布団をたたみ、植木鉢に水をやり、歯を磨き、髭を剃り、身支度を整え、トイレ清掃の仕事に赴く。玄関を

生活は、飽くなき回転体

ふたり暮らしを始めて気づいたことは、生活は回るということ。 衣類は、箪笥から、ぼくらの袖を通して、洗濯機に、物干し竿から、畳まれて箪笥に。 食糧は、店先から、うちの食品棚に、ぼくらの胃袋を通って排泄物に。 住居には、用具が収まり、活用されて掃除し、ゴミに出されて埋立地に。 図書館の本は、うちに移され、脳内に収まり、やがて返却される。 ひとところに、とどまらない。 お金も回る。情報も回る。掃除も回る。時計も回る。 エネルギーも回る。気温も回る。地球も回る。血液も回

ジモティーと耐性

妻の旧居にある家財道具を粗大ごみに出すよりも誰かに再利用してもらうほうが気持もよいと思い、ジモティーで無料引取の告知を出してみたけれど、数時間も経たないうちに後悔した。 夥しい数の申込依頼が一挙に舞い込むも、ほとんどが示し合わせたかのような一字一句違わぬ定型文。古物業者だろう。それは構わないとしても、メッセージのやりとりを始めると、文法のおかしな日本語だったり、不意に返信が途絶えたり、受取日時を強要してきたりする。相手のアカウントが過去取引ゼロの新規登録者ならば信用もゼロな