【論文レビュー】安全基地を作るリーダーとは?:セキュアベースリーダーシップ
今回は、セキュアベースリーダーシップについてです。
セキュアベースリーダーシップは、新しいリーダーシップの概念であり、主にスイスのビジネススクールIMDのGeorge Kohlrieserの研究を通じて発展しました。まだ関連研究も少なく、Kohlrieserの著書(Dare to Care)や、今回参考にしたCoombeの博士論文が主要な文献です。
インクルーシブリーダーシップと似た部分があり、また自組織がリーダー層へのメッセージに要素を取り入れていることから、このセキュアベースリーダーシップについて見ていきたいと思います。
参考文献
Coombe, David D. 2010. Secure Base Leadership: A Positive Theory of Leadership Incorporating Safety, Exploration and Positive Action. PhD diss., Fielding Graduate University.
ざっくりまとめ
セキュアベースリーダーシップ(SBL)とは?:リーダーが安全で安心できる環境を提供することで、メンバーが挑戦や自己探求に積極的になれるよう支援するリーダーシップスタイル
この概念は、親密な関係により安全な基盤を持つことで個人はリスクを恐れずに探索や成長できるという愛着理論(Bowlby, 1969)に基づき、リーダーが「安全基地」として機能し、メンバーに心理的安全を提供することを提唱している
本研究では、SBLの8次元と3つの主要因子と他のリーダーシップとの違いが明らかになった
どんな内容か?
リサーチクエスチョン
セキュアベースリーダーシップとは何か、それは組織の成果にどのように貢献するか?
また、既存のリーダーシップ理論とどう異なるのか?
研究デザイン
多方法アプローチ
Study1:SBLの次元を特定し、行動や特性を明らかにする(質的)
対象者:IMDのリーダーシッププログラムに参加した西ヨーロッパ(スイス、イギリス)、アメリカ出身の組織エグゼクティブ50名
半構造化インタビューによりリーダーがどのように安全基地として機能するか体験を聞き取った
Study2:特定された次元を基にSBLの尺度を作成し、その次元が成果(仕事満足度、リーダーシップの効果、心理的安全性)にどう関連するか検証する(量的)
対象者: 参加者50名(リーダー)、その直属部下205名(フォロワー)、上司(マネジャー)50名からデータを収集
SBLの8次元を評価するためのオンライン調査を実施し、リーダーシップ効果、仕事満足度、心理的安全性との関連性を分析。また、LMXとリーダーの組織的権力も併せて測定し、異なるリーダーシップモデルと区別できるかどうかも確認した
本文中では、愛着理論の「愛」とはなにかについても触れられています。相手だけでなく、自分にもポジティブな関心を持つことが重要ですね。
結果
質的研究:SBLの8つの次元が特定された
Acceptance(受容): フォロワーの価値を認め、受け入れること
Calm(冷静さ): 落ち着いており、感情が安定していること
Accessible(アクセス可能性): いつでもフォロワーに対応できる存在であること
Opportunity(機会): リスクを許容し、成長の機会を提供すること
Potential(潜在力): フォロワーの潜在能力を見出し、それを伸ばすこと
Inquiry(探求): フォロワーの話を聞き、質問を通じて関与すること
Positive Mindset(ポジティブな考え方): 問題をポジティブに捉え、解決に向かう姿勢
Intrinsic Motivation(内発的動機づけ): フォロワーの内発的な動機を引き出す能力
量的研究:探索的因子分析(EFA)を用いて、SBLの8次元が3つの主要因子(安全、探求、ポジティブ対応)に集約された。8次元はそれぞれ以下に分類される
安全因子(Safety Factor):受容、冷静さ、アクセス可能性
探求因子(Exploration Factor):機会、潜在力、探求
ポジティブ対応因子(Positive Dealing Factor):ポジティブな考え方、内発的動機づけ
他のリーダーシップとの違い:他理論よりも「安全」と「探求(リスクを取る)」のバランスを保ち、リーダーがフォロワーに対して感情的なサポートを提供する「愛」を含む点で独自性がある。Leader Member Exchange (LMX)、変革型リーダーシップ、サーバントリーダーシップの特徴に言及し、それぞれとの違いを強調した
考察
SBLは、安全を提供しつつ、リスクを取らせて成長を促す
セキュアベースリーダーは、前向きな問題解決を重視し、フォロワーの学びを支援する
学び
Dare to Careの考え方が、支援だけでなく、リスクを取って挑戦する(他者のニーズに応える行動をとる)ことを背中を押す姿勢であると理解できました。自分が安全基地で、もし失敗してもサポートするから思い切りチャレンジしておいで、ということですね。
インクルーシブリーダーシップ(IL)との違いは明示はされていませんでしたが、どちらも心理的安全性に焦点を当てるものでありつつ、よりSBLは個人の成長と挑戦支援に、ILはチーム全体における環境作りを重視するものであると理解しました。SBLが自組織ではトップ(Global)からのメッセージとして今後取り上げられますが、LFP的には後者を選択して良かったと答え合わせできました。リーダーシップは奥が深いです。