どこまでいってもカレーはカレー【短編小説#31】
日本一に輝いたカレーを食べても、残念ながらカレーの範疇を超えない。どこまでいってもカレーはカレーであることに満足がいかなかった。
目から鱗!こんなカレー食べたことない!これは間違いなく一位だ。
というカレーを探し続けたが出会えなかった。
そこで、男は自分が理想とするカレーを自らの手で作ることに決めた。付き合ったらダメな男の3Cは、カメラマン、クリエイター、カレーをスパイスから作る男というのを聞いたことがあるが、そんなの関係ない。
カレーベースに含めるホールスパイスやパウダースパイスの内容や配分を微調整していった。またカットトマトやプレーンヨーグルトのブランドなどもこだわり抜いていった。最初はやはりカレー味だったのだが、少しずつ満足のいく味に近づいて行った。
味を追求しぬくために、男はカレー以外のものを食べることがなくなり、365日、朝昼晩三食、カレーを食べ続けていた。
そうしてようやく理想のカレーを手に入れた。これは間違いなくカレーの範疇を超えたと確信していた。この完成した味を食べてほしいと、歯に衣着せぬ物言いの友人を家に招待して、率直な感想をもらうことにした。
いただきます。と言い、友人はカレーを一口食べた。味を追求したカレーは必ずカレーの範疇を超えていると男は確信していた。一口食べて満足した表情の友人が男のほうを向いてこう言った。
「素晴らしいよ。これはもはやカレーではない。ハヤシライスだ!」
カレーを食べ続けて、ハヤシライスの味を忘れていた男は膝から崩れ落ちた。
完
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