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つれづれ雑記*釣りの後は、の話*

 もうずいぶん前、娘らが小学生から中学生の頃だったと思う。我が家に空前の釣りブームが到来したことがあった。

 きっかけは、何だったかな。
 よく覚えていないのだが、思い出してみるに、直接のとっかかりは、定年後に釣りにどハマりしていた、私の実家の両親ご自慢の釣り場に連れていってもらったことではないかと思うが、説明するとものすごく長くなりそうなので、そこは割愛する。
 
 まあとにかく、娘らは最初の釣り体験が楽しかったこと、家人は中学生の頃によく行っていたのを思い出したこと、これが呼び水になって、最初はちょっとウチでもやってみる?という軽いノリだった。
 
 近所の釣具屋さんで、とりあえず、探り釣り用の短くて軽い竿を一本購入した。青い色が可愛い「青鱗(せいりん)」。名付けたのは次女。
 それで、ちょっと遊び半分で近くの海釣り公園へ出かけ、意外にも釣れてしまったのが、運のつき(?)だった。

 休みのたびに釣具屋さんに出かけては次々に道具を買い揃え、いつのまにか竿は「青鱗」のほか、赤い「亜朱(あっしゅ)」、黄色い「黄角(おうかく)」、さらに家人用の投げ釣り竿「海王丸」と、4本に増えた。(命名は全て長女と次女) 

 初めは探り釣りばかりだったのがだんだん欲が出て、いろんな仕掛けも試すようになり、釣れる魚も種類が増えていった。

 長女と私は飽きっぽいし、いわゆるアウトドア志向もそこまで強くなかったので途中からあまり熱を入れなくなり、たまにピクニックか冷やかし気分で顔を出すくらいだったが、家人と次女はどっぷりとハマってしまった。

 ところで、いろんな考え方があるかもしれないが、我が家では食べられる釣果は全て調理して、ありがたくいただくことにしている。
 
 そして、その調理担当は私、ということになる。(家人は包丁が持てない、というか、持ったことがない)

 私も決して料理上手なわけではなく、魚をさばいたことなどほとんどなかったのだけど、そこは見よう見真似で何とかかんとか調理していた。

 ガシラ(カサゴともいう)やアブラメ(これも、関東ではアイナメというのかな)、メバルなどの根魚、それから、カワハギなどは大体、生姜をたっぷり入れた煮つけ。
 ベラやアジ、サバなどは、まあ、そこそこのサイズなら塩焼き、小さいものは唐揚げ、もしくは南蛮漬けになる。
 ちょっと変わったところでは、よく釣りをされる方はご存知かもしれないが、グレ(メジナとも呼ぶらしい)という魚がいる。ちゃんとした磯場では大きなものが釣れることもあるが、我が家行きつけの釣り場では、手のひらサイズのものばかり。最初は塩焼きにしていたが、釣具屋さんでアクアパッツァという料理を教えてもらい、もっぱらこれになった。
 
 調理は少々面倒だが、夕食のおかずになるし、小さいとはいえ、獲れたての昼網。まあ、いいか、と思っていた。
 が、しかし。
 釣りの腕というのは、スポーツと同じでだんだん上がってくるものらしい。(当たり前といえば当たり前か)
 道具や仕掛けもどんどん揃ってくるし、釣り場にいると、いろんな人があれこれ教えてくれたりもする。
 そして、釣れ出すとものすごく嬉しくなって調子に乗ってくるもの、らしい。
 我が家の釣り師達は、ときどき、とんでもない釣果を持ち帰ってくるようになった。

 ある日、サビキ釣り(基本の釣り糸に針のついた短い釣り糸が複数付いていて、アジやイワシなどを一度にたくさん釣るやり方)で、潮の具合がよかったのか、ちょうど群れに出くわしたのか、クーラーボックスから溢れんばかりのアジとサバを釣ってきたことがあった。正確な数は覚えていないが、全部で100尾は軽く超えていた。
 嘘やん…。
 
 もう時間も遅くなっていたので、既に支度してあった夕食の後で、釣り師たちは釣具の片付けに勤しみ、私は大量の小アジたちと格闘することになった。今夜は食べないにしても、ある程度の処理はしておかないと、後で困ったことになる。
 流れ作業のように、頭を切り落とし内臓を出して水洗いし、新聞を敷いた上に並べて水を切る。
 キッチンペーパーでひとつひとつ丁寧に水気を拭き、ラップでぴっちりと包む。
 全部終わる頃には、シンクと調理台に敷いた新聞紙と包丁と手は、いろんなものでベタベタコベコベになり、あたりは閉店間際の鮮魚店のような、いわゆる磯の香り(?)が立ち込めていた。
 手や包丁はいくら洗っても匂いがなかなか落ちないし、2時間近くの立ち仕事、腰も首も痛かった。
 
 釣って来てくれるのはいいのだけれど、もうちょっと、いい頃合いで釣るのやめてもいいんじゃないの。100越えは、さすがに調理係としてキツいのだけど。
 
「だってぇ、釣れるんやもん」
「入れ食いやってんでー。鯉のぼりみたいに、立てた竿の全部の針にアジが喰ってるねん」
「グズグスしとったら、すぐに潮目が変わって釣れんようになるから、時間との勝負やねんなー」
 嬉々として語る、釣りホリック2人。
 
 うーん……。いや、わかるよ、わかるけどね。

 とにかく、いろいろと話し合った結果、たとい潮目がものすごくよくてどんどん釣れ始めたとしても、そこそこの時間、そこそこの釣果で切り上げること、を約束してもらう。

 ところがその舌の根が乾かぬうちに、いや、もう乾いていたからかもしれないが、今度はフカセ釣り(撒き餌をして魚を寄せ、浮きを使わずに釣るやり方)とやらを試してみたくなったそうで、これが何度目かのチャレンジで功を奏し、ある日、手のひらくらいのグレをふたりで60尾(!)ほど、釣ってきた。

 いやいや、これはあかんでしょ。

 いつもは穏やかな(?)私も、ブチ切れ(失礼)た。
 
 あのさ、この前、きっちり言うたよね。
 あの話、聞いとった?
 はあ? だって釣れるんやもん?
 面白くなって、つい?
 アンタらは、人の話を聞いとるんかぁ。

 結局、60尾のうちのいくらかは、隣家に頼んで貰ってもらい、後は慣れない手つきの釣り師2人にも手伝わせて(当然だ)、全部さばいて冷凍した。
 
 小アジやサバと違い、グレは小さな黒いウロコがびっしりついているので、ウロコ取りだけでも大変なのだ。あちこち飛び散るし、排水口ネットは、もう、すごいことになる。
 自分が集合体恐怖症じゃなくてよかったと、しみじみ思った。

 そのグレは、アクアパッツァにしてその後2回に分けていただいた。
 美味しかった(けどね)。

 釣りブームはそれからも数年続いたが、家人の転職や次女の受験進学が重なり、現在では全く行っておらず、釣り道具はホコリをかぶっている。
 
 そうなると、たまには捕れたて昼網を食べたいなと、少し思わないでもないが。
 いや、下手に言い出して、また前のようなことになっても困る。
 
 まあ、もしそうなったら、今度こそ「釣りは料理までしてこそ、完成形やからね」と宣言して、さばいて料理するところまで全部やってもらおうと思っている。

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#キッチンバサミを使うと楽です