つれづれ雑記 *5ミリの思い出の話
私が通学していた高校は、私が入学した時点では創立8年目というまだまだ新設校だった。
先生方も気合いが入っていたのだろう、校則もそこそこ厳しく、授業にも力を入れていた。
宿題はそんなになかったように思うが、きっちり予習している前提で授業がどんどん進むため、毎日の家庭学習が大変だった。
それと、英語の授業で毎回、単語の小テストがあった。
10問で1問1点。
10点満点のうち、8点以上が合格ラインだった。
7点以下にはペナルティーが発生する。
このペナルティーが、我が校名物(?)通称5ミリ、と呼ばれるものだった。
B 5の紙に5ミリ間隔で罫線を引く。向きは縦でも横でもよい。
それにびっしり裏表、英単語を練習したものを提出する。
枚数も、不合格ライン1点ごとに1枚。つまり、7点なら1枚、6点なら2枚。もちろん0点ならば、当然8枚となる。
小テストはほぼ毎日あるので、サボっているとどんどん溜まっていく。
罫線も自分で引かなくてはならない。1枚5分としても、5枚あれば25分。そのぶん、他の勉強の時間が減るわけで、実際のところ、どの程度学力向上に効果があったのか甚だ疑問ではある。
そんなこんなで開き直り、提出すべき5ミリを大量に溜め込んで提出しない生徒が増えてきた。
すると先生側は、更なるペナルティーを打ち出した。
提出期限を直近の定期テストまでとし、未提出の5ミリ1枚につき1点をその定期テストの英語のテストの点数から引くものとする、というものだ。
たとえば、英語テストの点数が60点だとして、未提出5ミリが5枚残っていたら、その60点は55点となる。
さすがにそれは困るということで、生徒側も本気になった。
単語テストを毎回合格すれば、ペナルティーなど怖くないのだけど、そうは考えないのが高校生だ。
5ミリを量産する方法を考えた。
まずは行を太くすればいいのでは、ということで、行の幅を5ミリから6ミリにしてみる。
これは通常のものと並べれば一目瞭然だ。
すぐにバレた。
次に、英単語を筆記体で、出来るだけ横長に引き伸ばして書き、1行あたりに書く単語の数を減らすというもの。
これもある程度までは大目に見てもらえていたが、度が過ぎてアルファベットがミミズのようになってきたので、ブロック体で適正なスペースを空けて書くようにとお達しが出た。
その次は鉛筆を2本持って2行を同時に書く方法。単純計算では、半分の時間で済む。
書きにくいし、かえって時間がかかるのではと思うが、やっていた生徒はけっこういたらしい。
これも、いつも2行ごとに全く同じ単語が同じ字体で同じスペースをとって並んでいるのが不自然過ぎて、やはりバレた。
それならと、2本の鉛筆のあいだにもう一本鉛筆を短く持って、1行空けて2行を同時に書くという荒技を編み出した猛者がいたが、さすがにこれは、時間がかかるうえに字もひょろひょろとなって上手く書けない。
意味がないということで実行はされなかったようだ。
ここまでするなら、普通に地道に書いたほうが早いと思うが、生徒側も何とか先生を見返してやろうと躍起になっていたのかもしれないし、密かに楽しんでいたところもあったのかもしれない。
紙に引く罫線に着目した者もいた。
行は縦書きでも横書きでもいいのなら、斜めでもいいのじゃないか。
そのほうが単語数がちょっとでも少なくて済むのでは、と思ったらしいが、実際には大して変わりはなかったようだ。
そういうわけで、定期テスト前になると試験勉強ももちろんだが、5ミリの提出枚数や期限がよく話題にのぼるようになった。
授業の合間の休み時間や昼休みに友人たちとおしゃべりしながらのんびり書いている者もいれば、授業中に教科書の陰で必死で内職している生徒もいた。
2、3枚をひらひらさせている者もいたし、結構な枚数を扇子みたいにして誇らしげにあおいでいる者もいた。
嘘かホントか知らないが、期限直前には書き上げた5ミリが、1枚10円で売られているという噂もあった。
そんな我が母校、人伝てに聞くと、今はどういうわけかそこそこの進学校になっているらしい。
5ミリのおかげかどうかはわからない。
ちょっとだけ、懐かしい思い出ではある。