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つれづれ雑記 *試食のお姉さん、の話①
我が家の長女は学生のとき、食品デモンストレーターのアルバイトをしていた。
もう、6、7年も前のことだ。
食品デモンストレーターとは試食販売員、早い話が試食のお姉さんだ。
試食販売員は、その店舗の関係者がされている場合もあるが、それ専門の会社からの派遣のことも多い。
食品会社と契約して、スーパーやドラッグストアで新商品のキャンペーンや宣伝のために試食試飲販売をするデモンストレーターを派遣する会社だ。
数日間の研修を受けて会社に登録する。
「○月○日、△△スーパーで□□の試食販売がありますが、行けますか」と連絡があると、行ける場合には、前日までに一度オフィスに出向き、必要書類を受け取り、詳細を聞きに行く。
当日は当該店舗まで自分1人で行く。
準備、始業、片付け、撤収も全て自分で行い、全てその都度電話連絡する。
必要な備品は、重い物(ホットプレートやクーラーボックスなど)は予め店舗に配送しておいてくれるが、その他の物(果物ナイフ、カッティングボード、エプロン、トレー、テーブルクロスなど)は自分で持参し、消耗品で現地調達できる物はその店舗で購入する。(紙コップ、紙皿、ストロー、プラスプーン、ラップ、爪楊枝など)
試食販売する商品も、企業から先にまとめて送られてきている場合もあるが、だいたいはその店舗で購入し足りなくなれば順次補給して、経費は後で精算する。
セッティングも、使える机や台などを貸し出してもらい、基本的には自分でやる。
場所や使える物など、先に聞いてた話と違うこともあり、その辺りは臨機応変、どうしても無理な場合はオフィスに電話確認。
とにかく、その店舗には今、自分1人しかいないので、柔軟な対応が必要だ。
このアルバイトを始めたとき、長女にこんな仕事が出来るのかと思って少々心配になったが、彼女はいろいろと文句や愚痴も言いながら4年間やり切った。
本社オフィスとのやり取り、派遣先店舗での対応や人間関係、立ち居振る舞い、お客様への応対。
なかなかに大変だったと思うが、これでかなり鍛えられ、現在の彼女の糧になっている部分は大いにあるようだ。
この度、noteに妥当だと思われる範囲で書いてもいいと長女の許可を得たので、少し書いてみようと思う。
以下は、彼女から聞いたデモンストレーターあるある、の話。
勧められても、買うかどうかわからないのに食べるのは気まずい。
よくお客様が言われることだ。
買わないのに食べたら申し訳ない。
いかにも遠慮深い日本人らしい考えである。
でも、大多数のデモンストレーターたちにはこんな遠慮は無用だ。
そりゃ、食べていただいて「あらー、美味しい。ひとつ買うわ」ってなるのが1番理想的だ。でも、お客様にだって都合があるだろう。お財布事情や、もう決まっている今晩の夕食との兼ね合いもあるだろうし、何ならこのまま帰るとも限らない。どこかに寄るのかもしれない。最悪、口に合わないかもしれない。
そんなことは、デモンストレーターたちも先刻承知している。
必ずしも買っていただかなくても全然構わないのだ。食べていただいて、知っていただくのが何よりの目的であって、とにかくそれがなければ試食の意味がない。
売り上げで彼女たちの査定が変わるわけではなく、むしろ試食がいくらはけたかのほうが大事なのだ。
食べて名前と味を覚えていただいて、またいつか見かけたときに、よかったら買っていただけたらそれでいい。
だから、試食を勧められてどうしてもイヤなわけでなければ、ささっと食べて、できれば「ありがとう、ごちそうさま」って言ってあげてほしい。それだけで彼女たちは報われるのだ。
第一、小皿に出したぶんはもう戻せない。だから、申し訳ない、などと思う必要はない。
お菓子などの試食の場合、子どもたちが数人でワーっと寄って行っても「ごめんね、おウチの人と来てね」とか言われることがある。
こういう場合、よく「ケチ」とか悪態をつく悪ガ、いや、お子様がおられるが、決してそういうわけではない。
子どもの場合、自分で自分のアレルギーを完全に把握していない場合がある。
お菓子には小麦、ナッツ、ゼラチン、その他いろいろな材料が使われており、見た目では分からない。それは他の食品でも同じだ。
試食品にアレルゲンが含まれていて、子どもが知らずに口にしたら大変なことになる。
なので、試食を子どものお客様に食べていただくのは必ず保護者の立ち合いの下で、とデモンストレーターたちは厳しく言われているのだ。
決して、お金を払わない子どもに食べさせても仕方ないとか、お財布を持っている親を連れてこいとか、そんなことを考えているわけではない。
試食の商品に対する思い出や思い入れを語って下さるお客様が、ときどきおられる。
国内の某乳酸菌飲料(水で割って飲むタイプのやつ)の試食販売をしたときのこと。
「お姉さんは知らんやろけど、昔はこれ、『初恋の味』言うてCMしててんで。え、知ってる? お姉さん、古いこと、知ってるなー」
「昔、喫茶店で、これとコーラ混ぜた飲み物、売ってたんよ。『キューピッド』っていう名前でね。何がキューピッドなんやろね」
「あー、美味しい。ありがとう。やっぱりこれくらい濃いほうが美味しいね。ウチは親がケチでめっちゃ薄いのしか飲ませてもらえんかったわ」
等等、なかなかに面白いお話が聞ける。
ただ、あまり長くなると他のお客様の対応ができなくなるので、その辺りはご配慮いただけるとありがたい。
最近では試食販売も難しいだろう。この状況が収まっても元どおりになるかどうかはわからない。
全く新しい形の販売促進活動にとって代わられるかもしれない。
でももし、いつかまた、スーパーで食品デモンストレーターを見掛けることがあったら、この記事のことを思い出して、ちょっとだけでいいので温かい目で見守ってあげてください。
ついつい長くなってしまった。
我が家の元食品デモンストレーターから聞いた内輪話はもう少しあるのだが、今日のところはここでおしまい。
続きはまた次回。
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