つれづれ雑記 *ギャップ萌え、の話*
『出会いは最悪だった』
物語の冒頭、こういう書き出しはよくある。
恋愛ものでも、青春学園ものでも、何ならミステリでもいいのだが、メイン登場人物同士の初対面が非常に楽しからざるものだった、という設定は往々にしてありがちだ。
そのほうが、後々のふたりの関係性が変化していく上で、何というか、ストーリーが格段に盛り上がる。
無愛想に見えたやつが、笑うと意外に笑顔が可愛い。
冷血漢で、万事が合理主義だと思っていたやつが、意外に熱い心を秘めていることが垣間見える。
すごく粗暴なやつだと思っていたら、意外に食べ方や所作が洗練されていてきれい。
傍若無人で鼻持ちならないやつだと思っていたら、意外と周りをよく見ている。
などなどなど…。
そう、この『意外に』がポイントなのだ。
このギャップによって、相手を改めて見直し、心を大きく動かされ、仲間になったり、あるいは恋に落ちたり。
そこから物語が動き出す、みたいな。
俗に『ギャップ萌え』という。
これらは、物語世界だけでなく、実生活でも非常によく見られる現象(?)だ。
初対面でいきなり「なんだぁ、コイツ。めっちゃ腹立つ」と思った相手が、何かのきっかけで「お、意外といいやつ、かも」となり、初めの印象から180度評価が変わることはままあることだ。
これは逆もある。
初対面ではすごく印象がよかったのに、だんだん「あれ?」となったり。
何かちょっとした事件(?)が起きて、それで印象がいきなりひっくり返ったり。
「思てたんと違う」とか言われたりして。(そう思てたんはあなたの勝手ですよね、とも思うけど)
これを何と呼ぶのかは知らない。
逆ギャップ萌え?
百年の恋もいっぺんに醒める、とも言うか。
どっちに転ぶにせよ、その落差が大きければ大きいほど、効果は大きいようだ。
誰もが一度や二度は経験したことがあるだろう。
さて、この現象、物語のとっかかりとしては面白いが、よく考えてみると、現実ではいろいろと疑問に感じることがある。
私は昔から、いわゆる『良い子』だった。
この言葉には、ときとして、若干の揶揄が含まれることがある。
決して、ものすごく優秀なわけではない。たぶん一番よくいるタイプ。
おとなしくて真面目ないい子ちゃんで、面白味がない。
こんなふうに言われたりもする。
別にそれはいい。
確かにそのとおりだから。
だけど。
例えば、クラスになかなかの悪ガキがいたとする。(男女を問わない)
制服は着崩して、歩き方もダラダラゾロゾロ。
授業中に仲間と私語ばかりして、先生の話は聞いていない。忘れ物が多い。そもそも、持ってくる気がない。遅刻、無断欠勤、途中エスケープ、何でもあり。
学年主任、生徒指導の先生、担任、と顔を合わせれば揉め事。たまには大喧嘩、取っ組み合いも、保護者が呼ばれるときもあり。
そんな生徒が、ある日、廊下を歩いていて、目についたゴミを拾ってゴミ箱に入れたとする。
靴脱ぎ場で、何気に屈んで自分の靴を揃えたとする。何なら他人が散らかしたスリッパを揃えたりも。
授業中、隣の席の子が落とした消しゴムを拾ってくれたとする。
それを目撃した人はひどくびっくりする。
何だか、ものすごくいい場面に遭遇したように思う。(確かにいい場面ではあるのだけれど)
そしてまた、そういう生徒が卒業式とかで泣きながら先生と握手してたり、ハグしてたりする。
先生もちょっと目がウルウルしていたりして。
数年後の同窓会でも、先生に真っ先に名前を呼ばれて、頭なんかポンポンっとされたりなんかして。
これに対して、(私みたいに中途半端に)『良い子』はどうだろう。
ゴミを拾うのも靴を揃えるのも消しゴムを拾ってあげるのも、普段から当たり前にやっている。
制服もちゃんと規則を守り、忘れ物も滅多にしない、授業も、たまには居眠りもするけど、概ね真面目に聞いている。
でも、別にそれはいつものことであって、誰からも驚かれないし感心もされない。褒められることもない。
そして、仕方がないこととはいえ、先生もそういう生徒のことは、印象薄めだったりする。
そうなのだ。
普段、ちょい(いや、かなり、でも)ワル、という人がたまにいいことをすると、ものすごく印象に残り、評価が高くなる。
普段から、そこそこちゃんとしている人がいつもどおりにいいことをしても、誰の目にも留まらない。そして、たまに(そりゃ、人間なんだからイヤになることもあるだろう)雑いこと、あまり褒められないことをしてしまうと、それがやたらと目立って、引かれてしまったりする。
そしてこれは、学校だけでなく社会に出ても同じようことが起こりがちだ。(芸能界、スポーツ界などでも、よく目にしませんか)
うーん。
すっごく言いにくいけど、はっきり言ってしまおう。
何だか、なあ。
『良い子』は損してない?
なぁんて。
これじゃ、『良い子』でないほうが得じゃない?
なぁんて。
別に損得で動いてるわけじゃないけど。
だからといって、ギャップ萌えを狙うためにいきなり悪ガキになることなんて出来るはずもない。慣れないことはするものではないし、第一、そんなことはやりたくない。
それが『良い子』の良い子たる所以なのだ。
そうだ。
平凡な良い子で何が悪い。
ギャップがないのが、何が悪い。
ギャップがないのは、最初から普段から、ちゃんとやってるからだ。
『意外』じゃないからだ。
頑張れ、全国の良い子たち。
ギャップなんかに負けるな。
褒められるべきは、キミたちだ。
……でも待てよ、平凡な良い子に見えて意外に、というのも意外に萌えたりするのかな、なぁんて。
(おいおい)
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#あくまで個人の主観です
#ドラマ演出としては面白いけど