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パウンドケーキを受け取れば、ブラウンのマスカラも迎えに行ける
復職の相談をしに、会社の労働組合の先輩とアポを取り会社近くのカフェへ行った。
彼女は私の新入社員時代に部署が近く、同じ部署の先輩に連れられて仕事の相談をしに行った思い出のある人だった。その当時は私も彼女も同じフロアにいたけれど、今は私はまた別の部署に、彼女は労組の専従社員として社員のためにバリバリ仕事をしている、頼もしい人だ。
数年ぶりに会ったのに、彼女は私のことをしっかり覚えてくれていた。
見舞金の関係で死産の報せは労組にも届くから、密かに心配していたと言われ、周りに自分のことを少しでも気にかけてくれる人が沢山いることに暖かさを感じる。
復職にハードルがあることを諸々話したけれど、やはり会社の規則を大きく変えることは難しそうで、色々なパターンを考えてくれたけれど毎日出社をしないでの復職はかなり困難であるとわかった。
それでも今まで話していた所属先の部課長が男性で、その気が無くても妊婦からすると心ないと感じる言葉をかけられたりしたことも、彼女は私と同じようにおかしいと思ってくれたし、初めて職場の人で一緒の方向を向いている人に出会えて嬉しかった。
「会社は結局男性社会だから、妊娠とかそういうのに対しては全然理解が進んでないところが多いよ」
何となく今回の復職の件でそうじゃないかと思っていたけれど、彼女の口からバシッと言語化されてああ、やっぱりそうなのね。と思う。
きっと私がどんなに声をあげたとしても制度を変えるまでには至らないと悟る。ちょっと悔しいけれど、最優先したいのは制度を変えることではない。
何よりも私はお腹の子と元気に出逢わなきゃ。
自分を納得させるためにもこの秘密裏の会合はとても有意義だった。
辛い壁打ちをして体調を崩すなんてもってのほか、産休まで休職しよう。
もしテレワークも認めてくれるなら復職するけれど、それができないのなら昨年7月からの長い夏休みをまた延長させていいんだ。
自分の中の指針が決まると途端に視界がひらけた感覚になる。
彼女は別れ際にそのカフェで先にこっそり買ってくれたパウンドケーキを持たせてくれた。
こんな心遣いもできる、素敵な先輩がいて本当に良かった。
何だか気持ちも軽くなってそのまま帰宅するのがもったいなくなり、来た電車と逆方向に乗る。そのまま乗り換えて、デパートに訪れた。
平日のデパートは休日よりも少し落ち着いていて、ゆったりとしている。
ずっとカスカスになっているのを目をつぶって強引に使っていたエテュセのマスカラの代わりに、奮発していいマスカラを買ってやるんだ。
事前に調べてブラウンのカラーマスカラが気になっていたアディクションへと向かう。幸い先客は誰もいなくて、美容部員の方が丁寧にタッチアップをしてくれた。
私はまつ毛にだけは自信がある。体全体毛量しっかりめ人間のため、まつ毛も生まれつき量も長さがある方というのだけが外見の自慢。
コスメを買うときに「肌が綺麗ですね」と言われるのはお世辞だと感じるけれど、
「まつ毛綺麗ですね!」はちゃんと褒められているなとちょっぴり自惚れてしまう。
今日の男性の美容部員の方も
「まつ毛の形も量もお綺麗なので、あとは好みですね〜」
なんて言ってくれるから、ドンドン嬉しくなって、
昨日復職の悩みで寝付けなかったことも忘却の彼方へとんでいくようだった。
辛いことがあった時は、自分の自信のある部位のタッチアップが効くんだ!
今後元気がなくなったらマスカラを検討しに行こうという学びを得る。
買ったのはアディクション ザ マスカラ カラーニュアンスのラスティブルネットというブラウン色の綺麗な色。明日からもこの綺麗なブラウンを纏って、出かけよう。
休職中、家に一人でいるとどうしても気持ちが塞ぎがちになってしまうけれど、
体調に気を付けながらも外に出れば、いろんな人に会えて、話ができて、気持ちも楽しくなって大満足で家に帰ることができる。
あとはつわりが完全におさまって、食の大冒険もできたら言うことなしなんだけどな?とお腹の子にもちょっぴり念じながら、明日の平日大冒険も画策してから眠りにつこう。