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近所で見つけた、思い出のファラフェルサンドと初の妊婦健診
ひよこ豆をすりつぶして丸めてあげた、コロッケのようなファラフェルをあげナスやキャベツなどふんだんの野菜と一緒にピタパンに詰めたファラフェルサンド。
初めて食べたのは高校生くらいの時に母と行ったパリ旅行で、マレ地区の店でテイクアウトした時だった。
ユダヤの帽子キッパを被った店員から購入したファラフェルサンドは、それまでほとんど対面したことのない彼らから買うというだけでもドキドキした。(また彼らは黙々と表情を変えずに用意するので、それも相まって)
少し歩いたポンピドゥーセンターの前のひらけた広場で母と一緒にかぶりついたファラフェルサンドは、魅惑の味だった。
異国のスパイスを感じるファラフェルも、コロッケに近いホクホク感があり、ぎっしりつまったキャベツやトマトには酸味のあるドレッシングがかけられていてサラダとコロッケを挟んだサンドイッチのような味で、とにかく日本人にも馴染みのあるけど異国も感じる不思議な料理だった。
相変わらずつわりの延長線で肉があまり食べられず、肉なしでも美味しい物を探している時に、ふと10数年前のそのファラフェルサンドの記憶が呼び起こされた。
そういえば、ファラフェルサンド食べたいなあ。
これまでもあのパリの味を思い起こしてファラフェルサンドを食べに行ったことがあった。でもファラフェルはもともと中東の料理で食べられているエリアも広いためか、なかなかあの味と似ているところには出会えていなかった。しかも店があるのは都心ばかり。
そんななか、自宅からバスで行ける場所にファラフェルサンドを金曜日だけ、提供するお店を見つけた。
しかも店主の方はフランスに滞在中にファラフェルに出会い、お店を始めたという情報が。これはまさに私の求めていたファラフェルサンド・・・!
午前中に用事を済ませ、意気揚々とバスに乗る。
中高の通学に乗っていた、懐かしのバスに11時台に乗る不思議。
バスを降りて店に入ると、すでに決めていた
ファラフェルサンド
デカフェホットティー
を注文する。
パチパチとファラフェルを揚げる音に心を躍らせながら待っていると
待望のそれはやってきた。
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揚げなすをはじめとしたたっぷりの野菜!スパイシーなトマトベースのソースと、白い酸味のあるヨーグルトのようなソース!そしてその奥にちらりと見える茶色い衣をしたファラフェル!!!!
「食べづらいのでスプーンとフォークも使って、ほじくりながら食べてくださいね」
と丁寧にカトラリーもいただいたので、最初はそれを使ってファラフェルと千切りキャベツを一口。
ウーーーーーーッ
これだよこれ、これが食べたかったんだよ・・・。思わず目を閉じて味わうと
2、3月の寒空の下、パリで食べたあのファラフェルサンドの光景が呼び起こされる。あの日も今日みたいによく晴れた日だったなあ・・・。
植物性の食物だけで構成されているのに、パンチもあって食べ応えもあるファラフェルサンドはつわりの私にもクリティカルヒットした。
ゆっくりゆっくりこぼさないように、丁寧に食べ進めていく。ちょっとだって食べ損じてはならないほど、これは思い出の味で、今私が求めている味でもある。
30分経たないほどでのんびりファラフェルサンドを平らげると満ち足りた気分になっていた。金曜しかやっていないのが残念だけど、絶対にそれに合わせてまた来よう。
そう思ってバスでやってきた道を徒歩でのんびり散歩しながら自宅へ帰りながら一昨日の妊婦健診を思い起こす。
今回の妊娠で、初めての産院での妊婦健診だった。
前の子の検診を担当してくださった先生がまた担当してくださり、
「お久しぶりですね」
と声をかけてくださる。一番初めに前の子が亡くなっていることを告げなければいけなかった、先生。申し訳なさそうな顔が最後に見た彼女の顔だったけど、そこからまた表情が更新されていくことが嬉しい。
エコーに映るお腹の我が子は元気そうで少しもぞっと動いたりもして、付き添いに来た夫と一緒に喜ばしい気持ちにさせてくれた。
エコーが終わった後診察の終わりに先生から
「また思い出させることかもしれないのですが…」
と2枚の紙を差し出される。
前の子の死産の時に念の為、と調べた染色体検査の結果原本だった。
コピーはもらっていたのだけれど、その原本が届いていたのでそれも手元に渡してくれたのだ。
その紙の問題なかった結果と元気な姿のお腹の子を見て、子同士がバトンタッチしている気がした。やっぱり私はちゃんと次は会わなきゃ、会える気がする。
お腹の子が生まれたらいつか母と一緒に行ったパリに、二人で出掛けてあのファラフェルサンドを青空の下ほうばりたい。