12年ぶりの招かれざる客
忘れもしない2024年8月3日。
平日の疲れが全く取れない状態で朝早く家を飛び出し、未だに不慣れなバスケの保護者当番を終え、更に疲弊を重ねて帰宅した午後13時過ぎ。
悠々自適な夫から、昼から某◎文屋系列店に誘われ、焼き鳥のカシラ好きな末娘も玄関で待たせていた。
出掛けに最低限の身だしなみを整えようと鏡に向かったところ、生え際に若干横長の黒いゴミ...
毛玉かな?ヒュッと取って流す前にふと爪の間にあるソレを確認したところ、頭頂部から舞い降りるような鳥肌が全身へと広がった。
アイツやないかい...。
それは、特徴的な手足と姿形をした、いつの時代も生命力がめっちゃ強そうなアイツだった。
12年前、長男の頭に襲来したことのある、虫が苦手じゃない私でさえも背筋の凍るアイツ。
その名もアタマジラミくんだ。
反射的に無かったことにするように、生きてるか死んでるか確認する前に洗面所にサッと流した。
さてどうするか。
夫と娘は既に玄関でワクワク私を待ち侘びている。
とりあえず、疲れた。
現実から目を背け、頭全体にパストリーゼをシューシューかけまくって髪をピッチリと結び直して家を出ることにした。
(絶対意味ない)
頭皮がヒリヒリと痛み、外に出るとカンカン照りのお日様にさらされた。
まだ居るなら、卵モロトモ、パストリーゼ×高温直射日光コラボで全滅してくれよな。
自分の頭皮に向けて投げやりに願った。
12年前の当時は冬だったので、羽毛布団にシーツに毛布に大物洗濯祭り、単独ゴーストバスターズさながらの大騒動だった。
当時、長男は最終的に坊主にしたのだが、私も娘もさすがに坊主にはなれない。
焼き鳥屋にて、怪しげな娘の髪もピッチリと結び直し、食べ始めたものの食欲が全くわかず。
外食では、食べたい割にいつも落ち着かない娘のトイレに2度、ゆっくりめに付き合いつつ、夫がその店名物・お1人様3杯限定の金宮梅割りこぼれ酒(アルコール25度)を飲んですっかり仕上がった様を確認し、店を出てから告白した。
「私の頭にシラミいた。薬局でスミスリンシャンプー買って帰るから先帰ってて!」
虫嫌いで神経質な夫だが、いい具合に仕上がっているので「はて?」と思考の鈍ったアホ面にクルッと背を向けて、そそくさと別れた。
帰ってすぐさま、娘と一緒にシラミ専用スミスリンシャンプーをして、地肌を丁寧に洗い、モコモコしてきた泡の中から満を持してアイツらが登場した。
娘の泡からも登場。私より成虫が多かった。
発生源はこちらだな。全身鳥肌総立ち状態。
洗面器にお湯を張り、最初は粗めの櫛でといてから、専用別売りステンレス製の目の細かい櫛でといて、洗面器に櫛を浸すと...いるいる。
うわ〜。地肌もメンタルもざわつく瞬間だ。
捨てなくて良かった、12年来の専用櫛。
高価だし、何となくずっと捨てられなかった。
もう必要ないとは思いつつ守り神のように引き出しに鎮座してたが、まさかまたお世話になる日が来るとは。
さすが12歳差で子供を産むと、時代は巡る。
娘のほうは、ステンレスの櫛でとくと痛い痛いと逃げるので相当大変だった。
シャンプーしてから流すまで10分置かなきゃいけないのが、子供にはかなりハードル高い。
どうにかこうにか話術と保育士スキルで引き伸ばし、撲滅するようしつこくしつこく髪の毛の裏表を櫛で丹念にといて、風呂を出た。
週末のうちに2人で朝晩同じ作業を繰り返し、かろうじて肉眼では卵も残ってないことを確認して月曜日を迎えた。
そのまた翌週、末娘が泊まりに行ったお友達のママから夜連絡があり「◎◎◎ちゃん、シラミだった?お風呂に入れたら、うちにもこのシャンプーあるって言ってて。ちょうど今うちの子もシラミだから、一緒にシャンプーしといたよ!」
?!
うちは撲滅したから何も言わずにお泊まりさせたけど、お宅は現在進行系かい?
それも事後談かい...。
すぐさま、その子と一緒に寝る=再発が過ぎった。その昔、かつては元アイドルだったそのママは、そういう人だった。(情報量多いのでここは触れずに流す)出身の沖縄では、シラミは日常茶飯事なのかな?
彼女の痛快な明るさに免じて深く考えないことにし、その週明けの月曜日の保育園お迎え時。
室内なのに、お散歩用のツバあり帽子を被っていた娘。
「◎◎◎ちゃんの頭にアタマジラミがですね...」
担任の先生から衝撃的な事実が言い渡された。
黒くなった小さな卵の殻、5個くらいを養生テープで挟んだ証拠のブツを見せられた。
ごめんなさい...。
事の経緯をざっくりと伝えてお詫びしたが、良い意味で古風で、子供ファーストに配慮してくれる行き届いた素晴らしい園で、ひっそりと温かく寄り添ってくださった。
娘から聞くところ、虫眼鏡も使ってチェックし、いくつか取ってくれたらしい主任の先生は、その後会っても微笑んで挨拶してくれるだけ。
呼び出したり、それにまつわる世間話すらしてこない優しさが、これまた辛い。
良くも悪くもアタマジラミは登園自粛対象とはならないので、年長はお昼寝もないし、園では暫く帽子を被って過ごすことになった。
専用シャンプーと、毎日の帽子の洗濯だけお願いしますとのこと。
その翌朝、幼児さんのお部屋には、娘を含め帽子の子供達が5人、テーブルに座ってニコニコと無邪気に折り紙を折っていた光景があった。
何とも言えなかった。
可愛さと切なさと心苦しさと...。
卵の孵化まで1週間から10日かかる厄介なアイツら。そもそも最初の発生源がどこなのか、今となっては知る由もなく、深掘りする気力もなく、夏休みなのに兄の小学校で流行中との噂も小耳に挟み、よくわからなくなった。
同じ部屋に寝る我が家のメンズは、夫を筆頭に次男三男3人ほぼ坊主頭なので不幸中の幸いかアイツらは住めない。居住不可能。
保育園での感染し合いが懸念されるので、暫くスミスリンシャンプーは手放せない。
保育園の可愛い皆んな、帽子が取れて地頭で遊ぶ無邪気な姿が早く見られますように...。
風呂から出た娘に向かって、
「シラミなんて気にしなくていいんだよう...」
孫を見るように目を細める夫。
あんたは12年前も12年後の今も、子供達の世話も心配も、厄介なシラミとの格闘とも無縁な親戚のおじさん的スタンスで、父親としては種馬の才能だけ長けて存在してるだけなので、そりゃそうだろう。
私はひたむきに、種馬じいさんにいつか下るはずの天罰を待つ。
南海トラフからの首都直下型地震の懸念と、アタマジラミの襲来からの肩透かし台風。
地味に精神的に脅かされ続ける壮絶な夏休み。
もう何も起こらないで早よ終われ。