ベースの左手のフォーム1
今回のnoteはエレクトリック・ベースを弾く際の左手のフォーム、指板上で弦を押さえる側の手について書こうと思ったのですが、その前提条件である“弦の押さえ方”について書いています。筆者はギターとベースでは根本的に弦の押さえ方が違うと考えていますが、書籍やネット上ではあまり深く言及されていないようにも感じるので、詳しく書いてみました。前回も書いた通り「正しいフォーム」というのはないとは思いますが、総合的に考えて「理に適った推奨フォーム」という感じで捉えて頂ければと思います。
・ 弦の押さえ方の鉄則
ギターやベースは指板上で押さえる位置、フレットを移動することで音程を変えるわけですが、弦楽器の音程は弦の張力が変わっても変化してしまいます。つまり、弦を押さえる際に弦を押し上げたり(いわゆるチョーキングの状態)、弦長方向に力を加えたりするのはNGで、弦の真上から力を加える(指板の真上から弦をフレットに押し当てる)べきです。特に届きにくい指や難しいフレーズの際に弦を引き下げてしまうことが多いですね。弾いている本人は気が付きにくいですが、客観的に見ると一目瞭然ですので、気になったら鏡などで自分の弦の押さえ方をチェックしてみてください。また、バイオリンやコントラバスは弦を押さえる際に弦長方向に力を加え、弦の張力を揺らしヴィブラートを掛けているわけですが(弦を押さえる場所は移動していない)、同様の力がスライドやグリスをしたあとに残りがちです。スライドやグリスをした際は少しだけ意識して弦長方向の力をニュートラルに戻すようにしましょう。
・ 弦を押さえる力の大きさ
どの程度の力で弦を押さえれば良いかは弦の種類や楽器のセットアップ(主に弦高)によっても左右されますが、ピッキングした弦がビビらずに、しっかりとした音程で伸びる(サスティンする)のが理想です。力を入れすぎるとフレット間で弦が押されてピッチが上がってしまうし疲れます。かといって弱いとビビってしまうので、“程々”が理想です(笑)。演奏時にあまりにも疲れてしまう場合は楽器のセットアップを見直すか、フォームを再確認するべきかと思います。良く聞かれることですが、弦を押さえるのに握力はあまり関係ないと思います。あまりにも握力が弱いのは問題があるかもしれませんが……。因みに筆者の握力は30㎏(成人女性の平均以下?)くらいです(笑)。
・ 弦を押さえる位置
エレクトリック・ベースの祖先でもあるコントラバスにはフレットが付いておらず、指板を押さえた指先の位置で音程が決まるのに対して、1950年代初頭に売り出されたフェンダー・プレシジョン・ベースはその名の通り「フレット付き(フレッテッド)なので正確な音程が出せる」というのがキャッチ・コピーだったそうですね。
だからといってフレット付きの楽器はフレット間であればどこを押さえても良いわけではありません。例えば3弦3フレット(4弦ベースではC音)を押さえるとして、2フレット寄りを押さえると弦がビビりやすくなりますし、2フレットと3フレットのちょうど中心を押さえると特に強く抑えた時にピッチが上がってしまいがちです。つまりフレット付きの楽器はフレットのすぐ脇を押さえるべきなのです。3弦3フレットを押さえるのであれば3フレットのヘッド側のすぐ脇です。指板上のコード・フォームやスケールのポジションはフレット間の中心に図示することが多いので、そこを押さえるべきだと勘違いしている方も多いかもしれませんので今一度自分が弦を押さえている位置を再確認してくださいね。
弦を押さえる位置はフレットのすぐ脇、と推奨する理由は音程やビビりの観点だけではありません。最も肝心な音色を左右するからです。弦とフレットは金属製ですが、フレット脇を押さえることで金属同士を確実に接触させることができ、サスティンは伸びやすく音色はややブライトになります。
筆者はどちらかというとフレットのすぐ脇ではなく、フレットの真上を押さえているのですが、こうすることで指先が振動する弦に触れ、少しだけ音色が柔らかくなります。つまり、ほんのわずかにミュートを掛けた状態ともいえますね。フレットのすぐ脇を押さえると開放弦との音色の整合性は取りにくくなりますが(ブラスナットはこの問題を解消する手段のひとつでもあると思います)、フレットの真上を押さえつつ、開放弦を弾く際にもナットの上を押さえれば音色の差を少なくできます。また、フレットの真上を押さえる癖をつけておくとフレットレス・ベースへの持ち替えがスムーズというメリットもありますが、押さえる位置がシビアでビビりやすくなるというデメリットもあります。
・ 弦を押さえる指の位置
弦を押さえる際に指先を立てるとピッチが上がりやすいというデメリットがありますが、指先が弦に触れる面積も音色面で重要な気がします。科学的な根拠は未検証ですが、体感として指を立てて細い指先で弦を押さえると音色も細く感じます。この観点から弦を押さえる指は指先ではなく指の腹が良いと思います。指の腹は爪の真裏にあるので、筆者的には爪の板で弦に蓋をするイメージです。
とあるリペアマンの方に指摘して頂いたことですが、指先が指板に触れているかいないかでも音色やサスティンが変わるそうです。筆者自身はあまり意識していませんでしたが、確かにそうかもしれません。筆者の場合は指の腹で分厚く弦を押さえているので確実に指の腹が指板に触れています。
・ 弦を押さえる指
弦を押さえる指は一般的に人差し指、中指、薬指、小指の4本ですね。基本的にはどの指で押さえても良いのですが、色々なフレーズを弾くならどの指でも同じように弦を押さえられた方が良いですし、押さえる指によって音色が変わってしまってもいけません。
多くの方は小指で押さえるのに苦労しますよね。筆者も小指で押さえた時の音色だけが細いと指摘され苦労した記憶があります。解決方法は小指だけの力で押さえようとしないことだと思います。小指だけでなく他の指をサポートとして活用して全指で弦を押さえつつ、ネック裏の親指を支点にして手首ごと肘を後ろに引く力も作用させるのが良いと思います。体育会系的に指先を鍛えるのも一興ですが、小指の指先の力だけで弦を押さえようとすると苦労するはずです。
・ まとめ
弦の押さえ方をまとめると、“弦を押さえる位置はフレットのすぐ脇か真上で、指の腹で、指板の真上から力を加え、弦を押さえる”と言えそうです。今回はこれで終わりです。あれ?左手のフォームじゃなかったの?っていう感じですね(笑)。弦を押さえる前提だけで終わってしまったので、もちろん次回に続きます。
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