ピオニーエンジェルの奇跡ー①
ピオニー・エンジェルの奇跡
ピオニー・エンジェルはいつもすぐそばにいる。
その高貴で美しい姿そのままに。
ピンク色の頬に羽二重のお洋服。
女の子の憧れそのもののピオニー。
キラキラの瞳はとってもきれいでガラス玉みたい。
はじめてピオニーと出会ったのは、そのつぼみがかたくかたく閉ざされた時だった。
わたしは部屋に花を飾るのが好きで、
家の近くにあるごく普通の花屋さんでよく花を買っていた。
たくさんあるお花の中から好きなものを一つ選ぶ。
その時気が向いたものを、気が向いたように。
わりと効率重視なので、つぼみのものを選んでは、
毎日水を替えて、つぼみから花開く瞬間を待ちわびるのが好きだった。
どうせ散ってしまうのなら、同じ値段で長い間楽しみたい。
このちいさなつぼみからあんな大輪の花が咲くのだろうか?とおもってしまうくらい、
芍薬のつぼみは小さかった。
家に帰ってフラワーベースに活ける。
透明で一目で水の量がわかるガラスのフラワーベース。
活けるといっても、枝の先をちょきん。と切って、水につけるだけだけど。
花ばさみは母のおさがりで、母が作ったパッチワークの袋にはいっている。
昔からある古くて重い銀色のはさみ。
わたしはフラワーベースをピアノのそばにあるサイドテーブルの上に置いた。
ピアノを弾くときは花が見えるほうがいい。
どうしようもなく泣けてくるときや、気持ちの高ぶりが起きた時に、
落ち着かせるためにピアノを弾くけれど、
お花が見えたほうがもっと落ち着くことが多かった。
そっとフラワーベースを置き、
いつものようにピアノに向かおうと、蓋を開けた時だった。
何かが私の前を横切った。
分からない。
虹色に輝く、ちいさななにか。
「え?何?」
思わず声に出していってしまった。
誰もいない部屋に私の声だけが虚しく吸収される。
防音設備の整ったこの部屋では何もかもが瞬く間に空に吸収されてしまうのだ。