愛しい人
愛しい人
私をカメラで撮る。
それがあの人の日課だった。
シャッター音はそれはそれは小さな音で、
隣にいないといろんな物音にかき消されて消えてしまうくらい、
小さなものだった。
それでもあの人は毎日私をフィルムに収める
それこそ、こちらがくすぐったくなるくらい。
大抵、朝、目が覚めるのは私のほうが早かった。
だから、ふわふわのパジャマの上にカーディガンを羽織って、
キッチンでお湯を沸かすのは私の役目だった。
まだ部屋の温度が上がらないキッチンにて、
コーヒーを淹れる準備をしていると、彼が起きてくる。
「おはよ。」
下はスウェットに上は何も着ていない。
「・・・・・はよ。」
まだ半分寝ている彼は私に寄り添ってきて、
首のにおいをすんすん嗅ぐ。
癖なのか、いつも、こうなのだ。
「くすぐったいよ。」
「うん。」
それからわたしのふわふわのパジャマの中に手を入れて、
おなかのあたりをぎゅうってしてくる。
うっすらおなかの上を滑らせてくる大きな手。
それからすぐ近くに置いてあるカメラを持って、
私のことを撮るのだ。
自然に。いとも自然に。
なんでこんなに自然に。ってくらい。
小さなシャッター音が部屋に響く。
「コーヒーできたよ。」
「うん。」
「冷めちゃうよ。」
「うん。」
手が伸びてくる。
またわたしのおなかに巻き付いてくる。
わたしの愛しい人。