ピオニーエンジェルの奇跡ー②
ピオニーエンジェルの奇跡―②
「あのね、変なこというかもしれないけど、」
そういってわたしは恋人に話し始めた。
ちいさな光る何かを見たけれど、それがなにかわからないということを。
確かにピアノの近くにいたのに、結局見つけ出せなかったことを。
彼といるといつもふわふわしてしまう。
一体自分が大人なのかそうでないのか分からなくなってしまうくらい甘やかされるので、
わたしはいつもふわふわのまま彼との時間を過ごす。
だいたいまどろみの夢の中にいて、そのまま帰ってこれないことが多い。
しかも大抵ベッドの中か彼の腕の中にいるので、私はそこでしか息をすることができない。
彼はお店に来たお客さんだった。
昼間はピアノ講師として働いているけれど、
夜はスナックの雇われママとしてお店に立つ。
一人でやっているから、店はそんなに大きくない。
カウンターのみの小さな店。
簡単なお酒と簡単な料理。
それにいつもお花を飾る。
それができればいいから。と言われて引き受けた店。
案外居心地がよくて、気に入っている。
それに一人でいなくて済むもの。
「それはとても興味深いね。」
彼の言葉はいつも的確だ。
幸せの真っただ中にしかいないわたしは自分の言葉を見失ってしまいそうになる。
なんとかそうならないようにつなぎとめるが、
まどろみはそうそうわたしを離してくれない。
きっとピオニーは知っているのだ。
わたしがなんにもできないことを。
そしてそれでいいということを。
だからまだ、彼女は私の目の前に現れない。