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【詩】 雨

雨が通学路を濡らす。わたしはあなたの寝息を聴くと、いつもそこはかとなく孤独を感じるのだった。定期券の入るパスケースの許された直角で、この夜をどこまでも守りたかった。それは叶わなかった。雨音がしんしんと刻むのはくたびれた余白でなく、たった今ここを凪ぐシーツの縦じわであってほしかった、願うのに、砂時計がわたしたちを彼方まで溶かす。このまま眠ってしまおうか、とだけ思った。「その淡い瞳で何をみているの!」知りたくて声をかけるけど、ほつれた学ランの裾の糸、向いていくあの子の白い肌、それがただ疎ましく思い出されて、明日はすぐそこだった。3%のレモネードが飲みたくなって、ベッドから足を下ろした。夜はBPMを上げ、わたしがヌードを恥じるまで、虹彩はたましいを直視しつづける。あなたのスマホへ着信があるけど出てやらないのは、どうしたって臆病なすこしの倫理で、愛をためらうつもりがある限り、訳もなくむさぼることはない。
窓際で月が揺れる。からからと回したストローの赤に、あなたの寝顔とよく似た血の色を見た。この夜を埋め尽くす雨が、わたしたちの通学路を、果てしなくつづく道を、降った。

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