マガジンのカバー画像

アカネの小説

43
アカネが書いた小説を入れるマガジンです。
運営しているクリエイター

2019年1月の記事一覧

【連載】 ジョージ・ホーネット3(魔法仕掛けのルーナ9)

【連載】 ジョージ・ホーネット3(魔法仕掛けのルーナ9)

「オーケイ、今日も起動試験だね」
 俺は手のひらの上の鉱石を——小石といった方がしっくりくるが——顔に近づけてみた。
 見た目は、ライムグリーンの下地にミルクを散らしたような、細かいまだら模様だ。形や大きさは完全に角砂糖なのだが、サイズに反して確かな重みがある。
 何の石かはわからなかった。魔法で一から生成したのだとしたら判別しようがないので、深く考えるのはやめておく。
 俺は鉱石を上着のポケット

もっとみる
【連載】 ジョージ・ホーネット2(魔法仕掛けのルーナ8)

【連載】 ジョージ・ホーネット2(魔法仕掛けのルーナ8)

 陽が昇り賑わい始めた通りを一つ一つ、通り抜けて行く。
 雑踏に包まれるのは嫌いではない。長身のおかげでどこにいても視界は良好だし、大抵は周囲が避けてくれるのでぶつかることは少ない。
 今も、遠くから俺の顔をチラッと見るなり「げっ」という表情になり、回れ右した男がいた。自慢じゃないが、俺は『ある人々』の間では有名人なのだ。特に同世代であれば俺の顔を知らない奴はいないだろう。きっとさっきの男も、俺を

もっとみる
【連載】 ジョージ・ホーネット1(魔法仕掛けのルーナ7)

【連載】 ジョージ・ホーネット1(魔法仕掛けのルーナ7)

 君の友人は何人いる?
 俺は二人だ。
 羨ましいだろ? 分けてあげないよ。

 寝起きはいい方なんだ。
 俺は今日もいつも通りの時間に、自然に目が覚めた。まぶたを開くと波が引くように眠気が去り、意識が冴えていくのを感じた。
 俺に身を寄せて一人の女が眠っている。昨夜買ったナンシーという名の娼婦だ。俺は彼女を起こさないようにそっとベッドから抜け出して、ローブを羽織る。疲れているだろうからもう少し寝

もっとみる
【連載】 フリード・シアン5(魔法仕掛けのルーナ6)

【連載】 フリード・シアン5(魔法仕掛けのルーナ6)

 研究所の小さな窓は、あっという間にてるてる坊主で埋め尽くされた。僕らは別の窓を求めて廊下に出た。
「おや?」
 僕はすぐに異変に気付いた。
 ルーナは立ち止まった僕にはお構いなしに、僕の脇をすり抜け、廊下の窓の前でいそいそとてるてる坊主を取り出している。
 僕は別の窓の前に立ち、思い切ってそれを開け放ってみた。
 冷たい、湿った空気が頬を撫でながら入ってくる。同時にしとしとと静かな音が聞こえてき

もっとみる
【連載】 フリード・シアン4(魔法仕掛けのルーナ5)

【連載】 フリード・シアン4(魔法仕掛けのルーナ5)

 既視感があった。
 紐でくくられた白いハンカチ。丸く膨らんだところに書き込まれている点と線。あれは顔だ。僕も小さい頃に作ったことがある。
 これをなぜ彼女が? いや、そう見えるだけで別の何かかも……。
「……ルーナ」
 呼びかけると、彼女の手の動きがピタッと止まり、スーッと首がこちらを向いた。エメラルドグリーンの瞳が僕の顔を見据える。
「はい。ご主人様」
 抑揚のない、判で押したような話し方だが

もっとみる
【連載】 フリード・シアン3(魔法仕掛けのルーナ4)

【連載】 フリード・シアン3(魔法仕掛けのルーナ4)

 それはそうと……
「ルーナ?」
 もう一度、声を大きくして呼びかけてみたが、聞こえてくるのは雨音だけだった。
 ルーナは呼べば必ず返事をするか、そばまでやって来る。そのどちらの気配も無いということは、僕の声が届く範囲にいないか、その場を離れられない事情があるのだろう。
 やれやれ、またどこかで立ち往生しているのかな?
 僕は廊下へ出て、もといた部屋のドアを閉じる。そこで周囲を見回してみたが、人影

もっとみる
【連載】 フリード・シアン2(魔法仕掛けのルーナ3)

【連載】 フリード・シアン2(魔法仕掛けのルーナ3)

 図書館の行き帰りくらいは問題なくできるようになったと見て、次は買い物を覚えさせようと、僕はルーナを連れて商店街へ出かけた。
 雑貨店の前で立ち止まって買い物に必要なことを教えていると、店員の女性が話しかけてきた。
「いらっしゃい。お兄さん、よく来てくれる人よね」
「こんにちは。はい。お世話になってます」
 おそらく60歳くらいだろう、人当たりのいい気さくなご婦人である。
 彼女はルーナの全身をま

もっとみる
【連載】 フリード・シアン1 (魔法仕掛けのルーナ2)

【連載】 フリード・シアン1 (魔法仕掛けのルーナ2)

「あれ?」
 いつもの引き出しを開け、差し入れた右手が空を掴む。覗き込んで見ると、中は空っぽだった。
 その下の段も開けてみたが、やはり何も入っていない。
 僕はきょろきょろと部屋の中を見回した。しかし、探し物はすぐ目に入るところにはないようだ。
「ハンカチはどこに行った?」
 僕の囁きは、窓を叩く雨音にかき消された。
 仕事を始める前に身支度を整えようと思ったのだが、上着のポケットに入れておくハ

もっとみる

【短編小説】 なぎさのやぼう

「来たな! よし、財布だ! 財布を出せ!」
 姪のなぎさは俺の顔を見るなりそう言い放ち、母親からゲンコツをもらった。
「こら! ご挨拶が先でしょ!」
「あけましておめでとう! 財布出せ!」
「言葉遣い!」
「財布を出してください!」
「よしよし、それでいいのよ」
「いいのかよ! ねーちゃん、他にもっと突っ込むとこあるだろ」
 なぎさの母であり、俺の姉でもある女は素知らぬ顔をして台所の方へ行ってしま

もっとみる

【短編小説】 黒の戦士たち

 もしかしてブラック企業なのかな?
 俺は入社一日目にして早くも就職したことを後悔していた。
 思えば、入社式での社長の演説がやたらと長かった時から嫌な予感はしていた。加えて、二、三日中に目を通してサインして来いと渡された契約書の厚みと言ったら! 何かの参考書かと思ったくらいだ。どんな複雑な契約を結ばされようとしているんだ? 正直、読みたくない。
 それでもまぁ、他の新入社員数名と一緒に社内を案内

もっとみる

【短編小説】ぼうやとシロヒゲ うなるオバケ

 小さなぼうやと小さな黒猫のシロヒゲは、仲のいい友達です。
 ぼうやが庭で遊んでいると、時々ひょっこりシロヒゲがやってきて、のんびりぼうやとお話をしたり、おやつを分けてもらったりして、夕方になるとフラッとまたどこかへ帰って行くのでした。

 その日、ぼうやは砂遊びをしていました。
「ヤァぼうや」
「やぁシロヒゲ」
 シロヒゲの声が聞こえたので顔を上げると、ぼうやは「おや」と思いました。
 シロヒゲ

もっとみる